読み鍋屋

杓子を逃げしものや何

リリィズのライブを観に行った話

はじめに

帰り道にはいつも夏の終わりの匂いがする。夏の終わりの匂い漂う道中に私はこの文章を書き始めた。

私が好きなバンド、リリィズが結成10周年を迎え、3枚目のミニアルバムをリリースした。一昨日その記念ライブが京都の西院ネガポジで開催され、私はそれに参加した。このコロナ禍に見舞われてから2年、基本的に私の住む県外で行われるイベントは他人事として楽しそうだなあと指をくわえていた。でも想像していたより感染者数が抑えられていた状態が続いた。ライブの報せを受けて3週間が経ち、ライブを10日後くらいに控えたころ、眠れない晩に、ひょっとしたらこのライブを観に行けるのではないか?と思い、目覚めてからその日のうちにライブと飛行機のチケットを予約した。

リリィズの紹介

リリィズを知らないでたどり着いた方にもその魅力を伝えたいので、まずはリリィズを紹介する。リリィズはTwitterのバイオいわく「京都左京区系/神戸鈴蘭台系サイケポップバンド」。Vo.&G.ゆきちゃん、Ba.山家さん、Dr.いなさんからなるスリーピースバンドだ。ゆきちゃんはMCできかれる少しの声のかすれと、歌詞の意味がすっと心に入ってくる凛とした歌声のギャップが素敵だ。

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山家さんは弾いているときのリズムを取るステップが昔から好き。ゆきちゃんとおそろいで缶詰の形をしたエフェクターを使っていたのに今回初めて気づいて、かわいい!と思ったらなんと手作りらしい。

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ゆきちゃんの足元に並んだ缶詰エフェクター


そして後から聞いたらギターを木材から作ったこともあるらしい。すごい。そして歌詞カードを見返したところ、山家さんが最もたくさんの曲を作っているそうだ。

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いなさんは基本繊細なドラムを叩いているが、激しい曲でも安定感がある。いなさんが兼任する台風クラブを、私の好きな赤い公園津野米咲さんがパーソナリティを務める「赤い公園津野米咲のKOIKIなPOP・ROCKパラダイス」で取り上げてくれたたときはとても嬉しかった*1

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好きな曲の紹介

私がリリィズに出会ったのは京都に住んでいた頃、たしか6年か7年前だったと思う。同じライブに出てPAをしてくれたこともあった。私が好きな曲を、YouTubeにアップしてくださった方の過去のライブ動画を拝借しながら何曲か紹介する。

Long Goodbye

本稿の書き出しをこの曲から引用させていただいた。2枚目のアルバムの1曲目で、私が一番好きな曲だ。ちょうどこの記事を書いているときに再生300回を迎えた。裏拍リズムがウキウキさせるけど、タイトルの通り別れというか諸行無常を歌っている。リリィズの歌にはこういう人生を進めることの寂しさが通奏低音として流れている気がする。6年を超えて同じ地に住んだ経験のない私の心にその通奏低音が共鳴するのが、私がリリィズを好きな最大の理由なのだと思う。

もうすこし一緒にいてもよかったかな なぜかしら わかれていくのかしら

なにもわるくはないけど みんなかわってくのさ ごめんね さよならまたね

youtu.be

センチメンタル

恋人になる手前の人との距離を歌った曲。

君との距離は何センチ 帰りホームで考える

君の溜息は何センチ 夜の深さは何センチ

私は去年その距離を測り損ねてしまい、相手にそれを問いかけるような話ができなくなってしまった。問いかけることはすなわち、距離の遠さを確認することになるような気がして、でも距離がわからない気持ちは止まらなかったからこの曲に逃避してセンチメンタルな気分になりすぎていたように思う。「これから君とどんな夏を過ごすのか 考えては眠れない」状態に至れなかったことが悔やまれる。昨日ライブで出会った人が、山家さんは身体的距離でなく精神的距離を感じさせない人だと話していた。山家さんはきっとこの曲で歌われていることを恋愛関係なく良く考えている人だからこそ、相手に心地よい距離感を与えられるのだと思う。そういう人に私はなりたい。

夕やけは遠い目をしてる

リリィズの代表曲で、周りに好きな人も多い。

なにになりたいかきかれたら いつだってこういうんだ 夕やけに 夕やけになりたい

2番までの哀愁とうってかわって、大サビ前の間奏で、ギターが一気に歪んで、それに呼応するようにベースもドラムも激しくなり、最後にまた静けさが訪れる。そのコントラストは夕日が沈む直前の最後の輝きから一気に暗くなる様を現しているのだろう。「シャガールブルーにそまった空をカモメが一羽飛んでゆく」という情景があまりに美しい。

youtu.be

妄想と幻想

好きな人と幸せな生活を送っているのに、その生活が長続きしない予感を持つ主人公の心情を歌った曲。「わたあめみたいに甘いだけの日々きっと続いてく」と自らに言い聞かせた直後に「ほんとは知らない未来のない日々終わっちゃうかもね」とあっけなく曲を終えてしまう。それがたった2分で展開される。私は現状を客観的に観たらうまく行っていそうなのに自分ではそう思えなくて落ち込む(ありていに言えば、自己肯定感が低い)という、この歌に近い状態が最近しばしば訪れて、その度にこの曲を聴いていた。アンコールのラストに唄ってくれると思ってなくて、やってくれた時とても嬉しかった。ゆきちゃんが20歳の頃に作った曲だと聴いてびっくりした。天才だ。

youtu.be

Midnight Cowboy

今回のアルバムで一番好きな曲。テンポ速めで、タクシーに運ばれて迫る別れに逸る気持ちがとても伝わってくる。

大切なものばかり 指のなか 胸のなか こぼれてゆくよ 秋の夜に 光るのは こぼれた夢と流れ星

京都で活動しているバンドなのに京都の地名が出てくるのは、(CDに収録されているなかでは)唯一この曲だけである。私より前からリリィズのことを知ってて思い入れも強い友人に、今回のライブのことを伝えたら、「リリィズを聴くと京都に帰りたくなってしまうからなかなか聴くことが出来ない」と言っていた。そんな彼はいま、この曲で歌われているニューヨークにいる。2015年に作られた曲で、その頃こうなるとは彼も想像してなかっただろう。そんな偶然に気づいてしまったら彼はほんとうに帰ってきてしまうかもしれないから、私はこの曲をすすめることなく、ニューヨークの12月は寒いの、と問いかけることしかできない。

ライブに参加してみて

初めて聴いたときから素敵なバンドで、身近なバンドのなかで一番好きだったけど、CDを手に入れてその曲の力に生かされるようになったのは、京都を離れて一人暮らしを始めてからだった。曲紹介で少し書いたように、最近は元気じゃないことが多かった。普段繰り返し聴くような、賑やかで元気が出る曲をどうしても聴けない気分の時に、そんな状態を肯定もせず否定もせず寄り添ってくれるのがリリィズと赤い公園だった。赤い公園はほとんど全ての曲を作っていたギターの津野さんが昨年亡くなってしまって、バンドも解散してしまい、もうその演奏する姿を観ることはできなくなってしまった。だからより一層、もう片方のリリィズが今年久々にライブをしてくれて、しかもそんなメンバーの人たちと話せたことが嬉しかった。何度も観たことのあるはずの機材のセッティングからどきどきしていた。最前列で横に来る人がいなくてちょっとでしゃばり過ぎたかしらと思いつつ、かといって遠慮したらきっと後悔すると思い、そのまま観ることにした。聞き慣れない曲でもウキウキしたし、繰り返し聴いた曲は涙が出た。そしてゆきちゃんだけじゃなくギターを弾いている何人ものかっこいい演奏を観たり、趣味で始めた人と話したり、聖地巡礼したりして、私のギター熱が再燃した。

最近思いきった行動をする元気が目減りしていたけど、思いきって行ってみて、ついでに他の行きたいところにも行けて、かばんをパンパンにして帰ることができた。前向きな気分でリリィズを聴ける兆しが見えた。思いきって行って良かった。これからやりたいと思ったことを前よりも実行することができる気がする。まあ「妄想と幻想」みたいに言い聞かせているだけかもしれないけれど、当分は前向きに言い聞かせてみようと思う。一番好きな状態のときにそのバンドのライブを観られるのは幸せだね。これから毎回観に行けるかは分からないし、次にやる頃には好きな歌とか服とか変わっているかもしれないけれど、いまはまた聴けるのが楽しみで、それで十分な気もする。ありがとう。

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*1:2020年8月26日のお祭りソング特集で「まつりのあと」がオンエアされた。