合格発表を直前に控えて、僕はこのタイトルについて書くことを決心した。
平常は話す方が書く方の3千倍は得意、こと論説文においては周りが構成力53万を誇る中僕は126などもう何も書かない方がいいのではないかと疑われる才のなさではあるけれども、僕が実に3年5ヶ月の間疑問に思い続けてきたことについて、今書き留めておかねば様々の記憶が散逸しもう二度と思い出せないようになること必至、未来ある若人により多くの情報を提供しよりよい進路を選んでもらわんとする僕のささやかな老婆心である。
完全に素人の自称分析なので、何でも許せる方のみご覧ください。
僕は大学入学にいささか遠回りをして(いわゆる多浪)、パッとしないところに就職し数年で辞めて会計士試験の受験勉強を始めた。血縁に頼れず自分の貯金とアルバイト代で勉強をするのは中々のギャンブルだ。
だから年齢にも口座にもバフのない僕が受験勉強をしている時一番気になっていたのは「大学受験の時と同じくらいには頑張っているが果たしてこの努力は報われるのか。実際にそこそこの大学に入ったり出たりした奴が大学受験の時と同じくらいの強度で勉強したとして、どれくらい受かる試験なのか」ということだった。
まず、巷でさんざ目にする倍率、公認会計士試験の主催である公認会計士監査審査会が発表しているものについてご覧頂こう。
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令和元年(平成31年)試験 |
平成 30 年試験 |
願書提出者数(a) |
12,532 人 |
11,742 人 |
短答式試験受験者数 |
10,563 人 |
10,153 人 |
短答式試験合格者数 |
1,806 人 |
2,065 人 |
論文式試験受験者数 |
3,792 人 |
3,678 人 |
最終合格者数(b) |
1,337 人 |
1,305 人 |
合格率(b/a) |
10.7% |
11.1% |
これを見ると確かに合格率は10%ちょっとだ。だから倍率は10倍弱。難しい?ただ倍率は当てにならんというのが僕の持論だ。日本の最難関、東京大学の理科一類(いわゆる理学部)の倍率は令和3年度第2次学力試験出願状況によると約2.7倍。一方で難関国立大学の一つ、神戸大学の理学部物理学科は約3.9倍だ。
どちらが難易度が高いか。偏差値で見れば一目瞭然だが東京大学の方が入りにくい。つまり猛者が集まると倍率に関係なく「入りにくい」試験になる。倍率からわかることは僕らが期待するほど多くないのである。
では何を見ればいいのか。僕らは究極何が知りたいのか。それは上にも記した通り『実際にそこそこの大学に入ったり出たりした奴』が『大学受験の時と同じくらいの強度で勉強したとして』、『どれくらい受かる試験なのか』ということだ。
『実際にそこそこの大学に入ったり出たりした奴』というのはいわゆるFランでない名前書いたら受かるような実質無試験の大学ではなく、それなりの頭を持って生まれそれなりの継続的かつ膨大な勉強をすることが前提となっている受験を切り抜け、無事合格を掴み取ったような奴のことである。
なので『大学受験の時と同じくらいの強度で勉強したとして』というのは結構人生に一度あるかないかの努力をもう一度するということで、「大学受験の時が最盛期だったもうあのパワーは出ない」とかだとこの条件は満たせない。何の因果か「人生に一度あるかないかの努力をもう一度する」気があるマゾヒストとか何かそういう生き物だった場合にのみ適用される。
で、自分がその何かよくわからない生き物な場合に『どれくらい受かる試験なのか』。
ところで大抵の場合、合格者は予備校のようなところに通っている。よく聞くのはTAC、大原、CPAなどだろう。ではこの三校の実績はどうなっているのか。
単位:人 |
TAC |
大原 |
その他 |
最終合格者 |
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2020年度 |
401 |
399 |
359 |
176 |
1,335 |
2019年度 |
360 |
470 |
357 |
150 |
1,337 |
2018年度 |
357 |
486 |
223 |
239 |
1,305 |
2017年度 |
352 |
482 |
121 |
276 |
1,231 |
上記からわかるのは合格者のほとんどが上記三校から輩出していることである。それ以外が合格者の10%ほどであることを考えると、先に提示した疑問を解決するのに予備校利用者を対象にした仮説を立ててもかまわないだろう(そもそも「その他」は分析ツールがない)。僕は大原に通っていたため、ここからは大原の実績と実際内部で見聞きしたことを中心に、TACとCPAの情報を補助材料に分析を進めたい。
公認会計士試験は、年に2回ある短答式試験(第1回が12月、第2回が翌年5月)を通過した者を対象に8月に論文式試験が行われるというスケジュールになっている。
短答式試験の合格率は毎回15%強から20%弱であり、 過年度の短答式試験に受かった者には3回短答式試験免除で論文式試験を受ける権利が与えられる。故にこの3回の論文式試験に失敗することを三振と呼んだりする。
まず、僕がいた校舎での開講時の在籍数を100%とする。僕は2回開講に居合わせた(1年目は入門生として、2年目は上級生として)ため、両方の情報を総合して上記の疑問点について考えようと思う。
半年くらい経つと大原はある程度授業(インプット)が進み、新たにステップ答練という演習(アウトプット)が始まる。これが始まった時点で20~25%の受講生が消えている(つまり12月時点で80~75%に減っている)。
ステップ答練はⅠとⅡがあり、ⅠとⅡの間には12月の第1回短答式試験がある(令和三年はなかった)。試験が終わるとまた受講生は減り、Ⅱが終わるころ(つまり5月末頃)には30%ほどになっている。
この中には1回目の短答式試験の合格者と不合格者(5月の第2回短答式試験を受ける予定の人)が両方含まれている。そんなに数は多くないが、ここから昨年の論文式試験不合格者も混ざってくる(これは開講時の在籍数を100%とした場合5%弱に相当する人数が混入するということである)。
自分で勉強を続けて、対策の練り込まれた答練を受けるよりも大きな成果をあげるのはそうそう簡単なことではないので、30%ほどの受講者を対象に分析を進める。
この中の20%強~25%弱が短答式試験を受ける必要があり、その中の幾ばくかが短答式試験を通過し、それとは別に上記5%弱の昨年論文式試験不合格者が合わさって論文式試験に進むことになる。
5月短答の結果が出てからも通い続けていた人は過年度生も全部併せて約20%。
当年度の短答式試験に5月まで全力を尽くしたにもかかわらず合格できなかった者は約30%の受講生が約20%に減ったところから考えるに10%程。
とすると当年度の短答式試験に受かった者は10%強~15%弱程だろう。
そして残った20%のうち、先生方が講義中に零したことを総合的に勘案するに、この中の半分強つまり10%強が論文式試験を通過するとのことだった(例年なら12月短答合格者は7割程が、5月短答合格者は半分が論文式試験を通過するとのことなので、25%中15%で合格率6割と考えると今年との整合性が取れる)。
この一連の流れの中で、本気で取り組んでいたと考えられるのはどの時点の受講者か。
色んな見方があると思うが12月or5月短答合格者に12月短答がだめでも5月短答まで何とか噛り付いたがだめだった(入門生の頃の僕みたいな)奴を含めると考えて、30%だろう。
まあ受講生の30%が本気で頑張って、10%超えるくらいが受かると考えれば、また短答式試験さえ受かってしまえば(20%)半分強(10%)が論文式も受かるなら、そんなに無理ゲーな試験ではないかもしれない。
ちなみにTACの「公認会計士試験合格者数上位10大学に属する全国地区通学生本科生カリキュラム修了者の2020年論文式試験合格率」が45.9%、
近年実績を伸ばしているCPAの「2020年合格目標の初学者または再受験者対象のCPA本科コースを受講した方で、カリキュラムを修了した受講生のうち、論文式本試験に合格された受講生 」の割合は37.1%であった。
(注:本科生カリキュラム修了者とは最後の講義まで残った者と推測されるので、上記の20%に該当すると考えられる)
繰り返すが前述の30%の中には昨年論文式試験不合格の過年度生が含まれる。
ちなみに論文式試験の合格率は37%くらいなので、単純計算でいくと三振する確率は凡そ63%の三乗となり約25%だ。決して高くはないが何ともコメントしづらい数字である。
僕がかつて死ぬほど頑張った試験はとある旧帝大の入試だ。その時の倍率は確か2.5弱だったと思う(ちなみに3点足りなくて落ちた)。
結局倍率の話に戻ってしまって、自分でも何が何やらというところだけれど、死ぬほど頑張っている者が割と多く母集団を構成する中で40%強が受かる試験だったわけで、
会計士試験は実際にそこそこの大学に入ったり出たりした奴が大学受験の時と同じくらいの強度で勉強したとして、三分の一が受かる試験(しかも2年以上かかる可能性が大きい)であることを考えると大学入試と似たり寄ったりか、ややそれより厳しい試験なのかもしれない。
ところで僕が初めに老婆心といったのは、嘘だ。
本当は、この文章を書いて自分を安心させたかった。文章構成力がなくたって、随筆みたいなのしか書けなくったって、今回の論文式試験できっと受かっていると自分を安心させたかった。でも安心できるほどには合格率は高くない。
短答式試験に受かるのに3年2ヶ月かかったけど、論文式試験の壁も高くて厚い。
合否は明日、発表される。