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「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」の感想

1.はじめに

1.1. ご注意

「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」を昨年秋の上映終了間際に滑り込みで観ました。楽しくてワクワクして励まされるとても良い映画で、観ていない人にも興味を持ってもらいたいと思ったので、その感想を書いてみました。でも書き上げたころには終映間際で、話題になるタイミングを逃してしまったので、BD発売に合わせて公開することにしました。誰が事件の犯人かとか、最終的に皆がどうなるかといった結末は避けつつ、印象的だったシーンを書いていきます。ネタバレ慎重派の方は回れ右していただいたほうが良いかもしれません。あっ次節で他作品の軽いネタバレも…🙈

1.2. これまでの映画クレしんの視聴履歴と観に行ったきっかけ

映画クレヨンしんちゃんは幼稚園くらいのころに夕陽のカスカベボーイズを観たのが初めてだったように思う。閉館した名画座で人知れず上映されている映画を観ていると…という序盤の展開に怖い思いをしたのを覚えていて、去年アマプラで観たときに20代中盤になった自分にとってもめちゃめちゃ良い映画だと思った。

他にもこの5年くらいで観たクレしん映画は自分が好きな順にオトナ帝国、戦国大合戦、ロボとーちゃん、暗黒タマタマ、ヤキニクロード、B級グルメ。全てアマプラで視聴したので、今回はなんと17年振りに映画館で観たことになる。ネタバレはしていなかったものの、Twitterや知人からの口コミは揃って絶賛であり、これは見逃すまいと思ってはや3ヶ月。そう言えばいつ終了するんだろうと近所の映画館のサイトを観たらその日に終了することが判明したので駆け込みで観に行くことにした。

2.あらすじ

2.1. 登場人物と舞台の概説

この映画は新しいコミュニティ(今回は学校)にかすかべ防衛隊の5人が飛び込んでいく(今回は1週間の体験入学)いつものプロットである。校長と教師AIと担任の先生とメインゲスト生徒5人(生徒会長、学年一位ガリ勉、学年二位ギャル、生物部部長、番長)が主な登場人物である。この学校は世界を股にかけるようなスーパーエリートを養成することを至上命題としていて、そのためにAIによる生徒評価が行われている。しかし必ずしもスーパーエリートに向いた生徒ばかりでなく、番長の言葉から学校の方針がエリート養成になったのはここ数年だとうかがえる。

2.2. 校内に流れる噂と中盤に起こる事件

月曜日の体験入学初日にしんのすけたちは、古びた時計台には"吸ケツ鬼"が出るから近づかない方がいいとの忠告を受ける。また執行部の定義するところのエリート度によるヒエラルキーがはっきりしていて、食事や教室などの待遇が雲泥の差であることが説明される。死に物狂いで評価を上げようとする風間くんとマイペースな4人という構図が生まれ、風間くんは孤立していく。特に奔放なしんのすけの行動を諌めようとするもとめられず、結果的に器物損壊や授業妨害などの犯行の共犯者となり風間くんの評価は思うように上がらない。AIから評価を爆上げする裏道があるとそそのかされた風間くんはその口車に乗り、吸ケツ鬼にお尻を噛まれた状態で時計台の中に倒れているところを発見される。そこに風間くんが残したダイイングメッセージは「33」だった…。

3.感想

3.1. 謎解き

まずこの映画は謎解きエンタテインメントとして上質だった。かすかべ防衛隊メンバーそれぞれに容疑者一人ずつが割り当てられる。でそれぞれのメンバーの怪しいところ怪しくないところがどれも信憑性を感じさせる。この人が怪しいかな…?と思った人に帰結するけども、最後まで確信が持てないその感じがとても良かったし、トリックは荒唐無稽すぎるけど実現は可能で膝を打った。しかもその謎解きパートで必然的に主人公たちとゲストキャラの1対1の会話が繰り広げられるので、ゲストのキャラクターも深堀りされる。それが事件解決後の展開にもにつながってくる。しかもその全てをクレしん味に調理されて出してくれている。針穴に糸を通すような職人芸…!!

3.2. 評価、愛、自己肯定感

何か単語だけ並べると薄っぺらい見出しをつけてしまったが、この映画は自分の好きな人と好きなように会うことが難しくなって孤独を感じやすいこのご時世のお守りたる作品だと思う。劇中では周りの目を気にして自分の持ち味を出すことが出来ない生徒会長とAIの評価を無視して奔放なしんのすけが対比される。そしてその違いは、周りに自分を愛する人がいるかどうか、自分を愛せるかだった。しんのすけが奔放なままでいられるのは、1週間不在になる前にみさえが深い抱擁をする場面に象徴されるように、愛情をくれて肯定をしてくれる人が身近にいたから。対して生徒会長は陸上でずば抜けた実力を持つのに、競技中の見た目を笑われてコンプレックスを持ち走れなくなってしまっていた。しかし「人が頑張る姿を笑う者はハゲタカにでも喰われれば良い」というみさえの言葉と、しんのすけたちの格好いいよという言葉に自己肯定感を取り戻す。

私が大学の頃に浸ったコミュニティは、上下関係を取っ払って問題を感じたら話し合う場で、無理に人を評価することを言う必要もないし、人から気に入られようとする人も少なかった。まあ共有する時間が長すぎて自分を繕うのはコストが大きすぎるからでもあるけども。対していまは面と向かって本当に考えていることを言われることが少なくなり、こちらもモヤっとしたことがあっても飲み込むようになってしまった。それで次に話をする時間も空くことが多いので、そのモヤモヤが自分の中でくすぶり続けがちである。言ったことに対して自分が低い評価を受けるのが怖くなってしまっているから、生徒会長と自分が重ねられた。だからこそみさえの言葉は刺さった。私が好きな赤い公園の凛々爛々という曲にも、似たようなメッセージが込められている。昨年12月にこの曲について記事を書いたので、詳しくはその記事を読んでほしい。

yominabe.hateblo.jp

この映画を観た頃には座右の銘を凛々爛々にしようと決めてから一年が経ったけど、曲を聴いて思い出すには馴染みすぎてしまっていた。同じことをみさえとひろしは違う言葉で伝えてくれた。2人の出番はこれまでの劇場版のなかで相当少ない方だったであろうけど、だからこそ自分を愛する自信を与えてくれた2人は輝いて見えた。生徒会長に自己肯定感を与えるきっかけが彼らとそれに続くかすかべ防衛隊だったのも良い。愛を分けてもらう相手は必ずしも家族でなくても良い。

3.3. 青春

また薄っぺらそうな見出しだけどこの先に書いた内容は薄っぺらくない。と信じたい。

この映画のもう一つ印象的なシーンは、最後のお約束的な全員集合対決パートにあった。このお約束パートというのは、演出を間違えると、まあそうなるでしょうね、みたいな冷静な見方をしてしまうし、演出がハマっていると、実家のような安心感!!とテンションがぶち上がるという実は難易度の高いパートだと思う。最近そのお約束がドチャクソにハマっているなあ!!と私が思ったのは、映画バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズと、テレビドラマMIU404と、映画ザ・ロックである*1

さて、この映画でのお約束シーンを引き立てたのは、ここまでのそれは「青春とは!」を様々なキャラクターとともに問うていく場面である。白状しよう、映画を観てからこの節を書くまでに3日経過してしまったのでその全てを思い出せない。それでYahoo!映画のレビューを読んで思い出した。「青春とは孤独」「青春とは後悔」。マジョリティだけでなくマイノリティにも目を向けてくれるこの映画の姿勢がすごく好きだと感じたのだった。そして同時に思った。その他にも並べられる「青春とは?」に対するアンサーには、25歳の私の現在進行形の人生でも感じられるフレーズが散りばめられていた。つまり、青春という言葉はわりと連続性のない状態(たとえば、大学を卒業して就職したら青春の終わりだとか)だと考えられている気がするが、連続的なものなのではないか?人生がつづく限り青春度は低くなってもゼロにはならない。ライフステージの変化とか、新しく始めた趣味とか、コミュニティを変えることによる新たな人との繋がりとか、そういった人生のマンネリ化を防ぐイベントがあるごとに青春度は高められるんじゃなかろうか。このシーンはもう一度見直したいなあ。

3.4. 映画館でこの映画を観るということ

最近映画館で観た映画のなかで、この映画は映画館で観て良かったと一番思った。1.2.で述べた通り、私は今作でクレしん映画を17年振りに観た。そこには17年前の私と同じく子どもたちとその家族が観客の多数を占めていた。終盤のしんちゃんとかまさおくんとかがくねくねしている場面で笑い声がこぼれていた。3.2.と3.3.ではいまの年齢で観たからこそ考えを巡らせられるようなことを書き連ねたけれど、そんなことを考えなくてもただおバカなシーンで楽しんでいる子どもたちと視聴体験を共有できたのは何よりも嬉しかった。たぶん一人で家で観ているよりバカだなあと言って笑うことが出来たし、同時にその幸福感に涙が出てきた。これからのクレしん映画も、興味が出たら可能な限り劇場で昼間に観ようと思う。

3.5. その他雑感

  • AIの評価システムでしんちゃんの人格が評価されないのはシステムがザルなのではないか?一方でギャルに代表されるハイポインターとか、逆に番長に代表されるローポインターにとっては、些末な素行の良し悪しは関係ないのだというのがわりとリアルだなと思った。
  • しんちゃんの下ネタから周りを巻き込んで不快にさせるようなのがだいぶなくなってて、おおバランス感!と思った。
  • かすかべ防衛隊が互いのことを思っているものの手段の違いにより対立してしまうのがエモい。
  • 映画が出来るごとに新たな場所が爆誕しがちな春日部市、あれはスクラップ&ビルドなんだろうか?(笑)
  • 最近のひろしはスマホ持ちなんやなあ~
  • 終盤の風間くん母に爆笑。
  • ラソンは相手のペースに合わせない方がええで、なんて去年ちょっとランニングブームが訪れていたからこその感想を抱いた。
  • マカロニえんぴつ初めて聴いた気がするけど良き!
  • そういえばしんちゃんとひろしが声変わりして初めてちゃんと観たけど、序盤こそ気にしてたものの中盤から全然気にならなかった!

4.まとめ

これまでに観た映画と定量的に比較するためにここ数年観た映画には点数を付けているんですが、この映画はオトナ帝国と戦国大合戦に匹敵する点を取っていました。カスカベボーイズもっと高くてよくない?とか色々思ったけど(笑)、劇場で観たからこその加点もあったと思う。まあ点なんてどうでもよく、色んな人におすすめできる映画でした!まだ観てないかたはどうにかして観ることをオススメします!

追伸 はじめて映画レビュー記事を書いた感想

この記事を書いてて読書感想文を思い出した。中学のころ、普段優しい国語の先生が感想文の評価だけやけにスパルタだった。感想文の例をコピペするのはさすがに良心が痛んだので、感想文の書き方をレクチャーするサイトを検索した。いわく、あらすじでほとんどを埋めてしまうのは典型的な悪い感想文で、自分の人生を語るのが良い感想文だという。さて今回の文章はそんな風に書けただろうか。

 

21/10/20提出 22/2/4公開

*1:MIU404はお約束も予測できない展開もどっちも痺れた。