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牝鶏nの微睡#番外編 僕は計算が出来ない

僕は、計算が出来ない。

合格に不可欠といわれる「計算が得意」という要素を最後まで満たすことが出来なかった。だから受験生の能力としてはちょっとイレギュラーかもしれない。でもゴリゴリの文系で計算は出来ないが文章能力は高い、みたいな僕のような受験生も合格しているのでその話をしたい。

また、ネットにはずっと成績が良くてそのまま合格しました(主にツイ校等)という人たちと大逆転しました!みたいな両極端の合格体験記しかない。合否ボーダーをうろうろし続けた僕がこれを書くことで後の受験生の心の支えになれるんじゃないかと思ったのでその話もしたい。

〇「計算が得意」なことが合格の決定的な要素なのか

どこの予備校の先生も、「合格するには計算が得意でなくては」という。僕は受験生時代にこの言葉にとても悩まされた。大学受験も最後の最後まで数学が足を引っ張った。自分では相当努力家だと自負しているがそれを完全に打ち消してしまうくらいに情報を正確に拾うことが苦手だ。そのため精密さが要求される計算で僕は点が取れない。計算ミスや読み違いなど、理解とはかけ離れたところで他の受験生と差をつけられることは少なくない。会計士試験になるとこれに電卓の打ち間違いが仲間入りする…まあ色々と言い訳めいたことを話したが、ともかく点が取れない。理論科目の答練の方がまだ安定して平均を超えるくらいで、5月以降の計算科目の答練で平均点に届いたことがない。

二年目ということもあって日頃の答練では平均点を超えることが多く、模試でも3月の一回目は何とか得点率52.2をキープした(ボーダーラインは一般に52と言われる)ものの、5月を境に答練の点数は平均を割ることが増え(これは短答式試験合格者のみが残る母集団の変化が主要因ではある)、模試も二回目は50.6、他社では47をマークしてしまった…ちなみに順位は836番中549番、一つの予備校で合格するのは400人から多くても500人くらいなので本番なら間違いなく落ちている。

昨年より理解は進んでいる割に伸びないどころか下り坂の成績…いい加減煮詰まっていた折、ふと財務(計算)の成績優秀者名簿でとんでもないものを目にした。高校時代に簿記のインターハイに出ていたという、ものすごい計算が得意な人が今年の答練の優秀者名簿に名を連ねている。彼女は僕と京都校の同期だったが、短答式試験は一発合格していた。なので、短答式試験の合格に1年多くかかった僕が今年論文式試験に2度目の挑戦をしようとしていることを考えれば、彼女は今年3度目の挑戦(つまり今年落ちたら三振で後がない)となる。これは一体どういうことなのか…

 

もし、先生方が強調するように計算が得意なことが合格の決め手になるなら、彼女は論文式試験を3回も受ける必要はなかったはずだ。だとすると、もしかして、彼女の成績がどんな状態なのかは僕は知る由もないが、多分先生方の話から僕らが感じるほど「計算が得意」であることが合格の決定的な要素ではないのではないか。実際、今回全く計算が得意でない僕が(幸運にも)受かったことを考えると「計算が得意」なことよりも「苦手を極力減らす」ことの方が大切なのか。

そもそも、会計士試験は得点率の平均で合否が決まる。そう考えると計算にしろ理論にしろ突出して出来るものがあるより、致命傷を負わない程度の実力がすべての教科にあるほうが有利かもしれない。

〇模試の結果と先生のアドバイス

度々指摘する人もいるが、会計士試験が他の国家試験と違うのは作問機関と試験対策機関が別である点だ。試験を作っている機関が学生を育て、その結果試験を作っている機関から望ましいとされた能力を身につけた者が受かる、という試験ではない。予備校の先生はあくまで問題の予想者であり、作問者その人ではない。それに、先生は別に僕の成績を逐一追いかけて分析しているわけではなく、勉強の進め方についてのアドバイスも自分の体験を基に話すことが多い。だから自分の成績やコンディションを一番よくわかって分析出来るのは実は自分自身だと思う。先生のアドバイスは話半分に聞いて、ミクロな視点で自分に足りないところを訥々と埋めていくのが結局一番効率的だ。

模試についても似たようなことが言える。模試の作成者は実際の作問者でないため、ただでさえブレの多い本試と内容や難易度を近づけるのは至難の技だ。現に今年だって租税法でグループ法人税は出ず、財務で事業分離・企業結合は出なかった。とはいえ、それでも模試を受ける価値はあると僕は考えている。それは真剣に勉強している受験生は皆模試を受けており、万一同じ問題が出た時に点差をつけられないようにしなくてはならないため、逆にどういった問題は解けなくていいのか見極める力を養うためである。繰り返すが、大きな苦手を持たず、皆が取れるところで落とさない、これが合格のためにクリティカルに必要となる要素だ。

〇「計算が得意でなくては」とは

先生方の仰ること…面談やレクチャーの中での雑談、その他様々なコメントは多くの場合初学者にむけたものである。なぜなら受講生は圧倒的に初学者が多く、初学者へのアドバイスが多く求められる傾向にあるためだ。

これは僕の推測だが、論文式試験において「計算が得意でなくてはならない」のは初学者だからではないか。監査論や企業法など理論科目はとてつもなく範囲が広い。十分な理解度に到達する勉強時間を考えると、とてもじゃないが1年2年でどうにかなるものではない。それは単に勉強時間の問題だけでなく知識の成熟を待たなくてはならないという側面もある(何度読んでもわからなかったことが時間を置くことで腑に落ちることを指す)。つまり、「計算が得意でなくてはならない」とは一部しか表現していない…(理論科目は十分に取れないのだから)という前提が隠れている。

理論科目が取れないのだから、その穴を少しでも計算科目で埋めなくてはならない、だから「計算が得意でなくてはならない」のではないか。

〇本当に合格に必要なのは

大きな苦手を持たず、皆が取れるところで落とさない、バランスのいい点を稼ぎ出す能力が合格には結局一番必要だ。だから過年度生になったからといって、逆に理論科目で計算科目を埋めようとしてもいけない。

苦手なら苦手なりにベストを尽くし、穴は放置せず、せめてくぼみくらいにして臨む覚悟が要る。同様に「自分は計算が出来ないから受からない、絶対的に不利だ」と思う必要もない。

 

頑張ったから、ベストを尽くしたから受かる試験ではないけど、ゴリゴリの文系を薙ぎ払うような試験でもない。

門戸は多分、狭くて広いはずだ。