※原作13巻までのネタバレをガッツリするので注意
メダリストを読み始めたきっかけと好きなところ
メダリストはアニメを3月に観始めて、5月ごろに原作に手を付け始めた。アニメを観始めたきっかけは、米津玄師が原作を推していること、メダリストを視聴しているTLのユーフォファンが何人か観測されたこと、最近好きな作品の掲載誌であることが多いアフタヌーンでの連載だったこと、そして冬期に最も人気なアニメの一つであったことだ。こう書き出してみると今のように本作にのめり込むのは必然だったのかもしれない。
私は人生の様々な場面で、ミーハーモードと斜に構えモードを行き来しているが、2022年にリコリコを見てからは、そのクールの人気アニメは面白いことが多いという当たり前の事実に気づき笑、ミーハーに人気作を見てみようというマインドになっている。
そして冒頭に述べたように今回はミーハーモードだったわけだが、3話でたい焼き作戦を選んだいのりちゃんに感心し、4話のいのりちゃん名港杯初滑走シーンで早々に泣かされて作品への信頼感を確立し、アニメ脚本がユーフォの花田さんであることが判明し、「見なよ、俺の司を」をユーフォのくみれいパロで描き始めたあたりからミーハー路線から外れて本格的にハマりだした気がする。
脱稿ハイでついくみれいのメダリストパロを描いてしまいました……… pic.twitter.com/uhocTdEFcn
— p.w.θ @ イラスト (@pwth_illust) 2025年3月25日
この作品は面白どころを抑えるのが上手だなあとメタ的に分析する機会が度々訪れる、魅力の分かりやすい作品だと思うけれど、それを認識しながらちゃんと心揺さぶられるところが好きだ。たとえば主人公のいのりちゃんがスケートを始めるまでの主人公師弟の描写。いのりちゃんがスケート以外はできない子、ミミズが好きな子、遅くまで始めていなかったことというネガティブ要素と転ぶのを怖がらない、氷への執着心がある、そして司先生が現れたというコントラストが鮮やかだ。一方の司先生はまず、いのりちゃんと同様(それ以上に)スケートを始めるのが遅かった、選手としての成功を逃した、とにかくお金がない。しかしいのりちゃんに共感しいいところを見抜く指導者適性がある、アイスダンスで鍛えた観察力(と動体視力?)がある、褒めることへのハードルが低い(褒め上手、と言いかけたが最近はいのりちゃんを食傷気味にさせているので上手とは言えないかもしれない。笑 しかし私はそんな司先生を見習いたい。)、アフタヌーン読者層が共感しやすい20代後半。
いるかちゃんとの邂逅
この調子で12巻まで良いところを挙げていると永遠に13巻のレビューが始まらないので笑、いるかちゃんの話に移る。岡崎いるか、それはアニメにまだ登場していないにもかかわらず、先日行われた第2回キャラクター人気投票で、司先生といのりちゃんを抑えて僅差で1位に輝いた高校生フィギュアスケーターである。私もいるかちゃんに投票した。
いるかちゃんもまたメタ的に魅力を分析しながらズブズブとその沼にハマってしまうような人物である。私が辞書の編纂者であったなら「メロい」の用例にいるかちゃんを採用したかった。小学生から中学生にかけてのいのりちゃんとその同世代の子たちを、我が子を見守るような目できゅるんと見守ってきた我々読者の前に突如現れた先輩。ジュニアの世界の何たるかをいのりちゃんに見せつけ、口は悪いのに面倒見が良いというか、いのりちゃんをがっつり可愛がる。ありていに言えばツンデレ。限られたキャラクターにしか許されない髪に反射した光のキラキラ、イメージカラー青、プールがあれば入って浮き輪にかっこいい座り方して黄昏れる、いのりちゃんへの距離感が近い、服装がかっこいい、腹筋が割れてる、etc, etc. 後半はただ自分のヘキを開示しただけのような気がする。というか開示していなかったのにフォロワーさんに見破られた。解せない。
読み進めていったら、これまできゅるきゅる小学生ばかりだったところに颯爽と現れたバチイケお姉さん・いるかちゃんに心奪われた…✨️最近絵を描けてなかったのでリハビリがてら模写🤗かっこいいキャラ描き慣れてないから、自分の絵柄に落とし込むの大変そうだ…!! pic.twitter.com/nvagzYA1vq
— p.w.θ @ イラスト (@pwth_illust) 2025年5月11日
そんないるかちゃんが大怪我してしまうのも作劇上の必然だったのだろう。こんなに完全無欠なキャラクターが順調にメダリストになってしまったら、いるかちゃんが主人公になってしまう。いのりちゃんの壁になり、いのりちゃんの行く先を示し、そしていのりちゃんにとって大事な存在にしたところで、大きなアクシデントが起きていのりちゃんの精神的な試練のトリガーとなる。これはいのりちゃんが主人公の作品なのだ。いるかちゃんはいのりちゃんに数多くの影響を与えたし、これ以上本人が活躍してしまうといのりちゃんの活躍が霞んでしまう。
…でもさあ!!読者には知ったこっちゃないんだよ!!不遇な家庭環境を乗り越えてここまでストイックに女子高生フィギュアスケーターの第一線を滑走し続けてきたいのりちゃんには幸せになってほしいんだよ!!どんな怪我なんだ?!?!選手生命絶たれてたりしないだろうね?!
というのが12巻読了後の私の気持ちであった。13巻を読み始める前に復習して、自分がとんでもない怪我をしているのに後輩たちを鼓舞するいるかちゃんを見て涙目。
各話感想
49話を読んだ時点でたくさん話したいことが出てきたから各話感想にします。
49話「全日本ジュニア女子SP」
いのりちゃんの一番惨めな日。滲む涙を止められなかった。
まず4ページの笑顔が、いのりちゃんらしくない”模範的”な笑顔で、本当に大丈夫なんか…?と疑心暗鬼で見ていたし、滑り出しは順調だった。そう、11ページまでは。実力と実績を積み重ねて有名になり、高まる観客の期待。そんな選手だけに与えられる手拍子。…なんか残像少なくない??その後の15ページの転倒、この漫画で時折見られる引きのコマ。大技を成功させているときは選手が会場を支配しているかのような覇気がバリバリ伝わってくるのに、転倒するときは突き放すかのようなアングルで、氷の上は孤独な世界なのだと直視させられるとてもつらいアングル。…そんなときだからこそ寄り添う司先生。
そして20ページ。ついに転倒する姿さえ描かれなくなってしまった…バトル漫画で噛ませ役があまりに残酷な攻撃がなされているためにカメラを逸らされている時を思い出すような、あるいは格付けチェックで「映す価値なし」と判定されてしまったかのような…およそ主人公に対する扱いではない残酷な描写に涙が滲んだ。
その間を埋めるかのようにいのりちゃんの額に貼り付けられた笑顔も痛々しい。小学生の頃に戻ったかのような無邪気な振る舞い。これまでいのりちゃんのステップが進むたびに詳しくなっていったフィギュア大会のルール、敗北者になるルールまで知りたくなかった…しかも最後すずちゃんの結果なんて見せるまでもない(”いのりちゃんと違って”SP落ちするわけがないから)という演出…隅々までしんどい…まだこの巻の1話目なんだけど…?!
50話「本気の証明」
本気じゃないって思われるのだけは絶対にいやなんだよ!!という叫びの圧倒。完全無欠の全大会制覇を目指してきた光ちゃんが誰かのために滑ると宣言し、そのために夜鷹純から手を離しさえする…だって?!?!という驚き。SP落ちしてしまっても応援幕を掲げ続けるファンの親子に感涙。早く次の話が読みたい…!!
51話「全日本ジュニア女子FS 前編」
演技力→大技→目線→気迫…細部に宿る神、しかし最後まで順調には終わらないことを感じさせるほころび、そしていのりちゃんの反応…これ以上を語るのは野暮な気がするからまず次だ…!!
52話 「全日本ジュニア女子FS 後編」
やりやがった!!!全話のほころびのあといのりちゃんが失敗したのと同じ手拍子でドキドキしながらページをめくったあとの華やかな見開き!!そして光ちゃんの名前回収!!…を待つ間もなく少し減速はすれど重たい展開の夜鷹純コーチ自主退任…夜鷹純周りについてはXで見た感想の再生産になってしまう気がするから多くは語れないけど、自分が捨てられるところまで自分と同じ道を歩むと最初から予期しながらここまでコーチを務めてきた夜鷹純、不器用だけど立派なコーチだったんじゃないか…!!
53話「人魚と刃」
そしてどうなってしまったのかずっと気になっていたいるかちゃんの話…こわい…と思いながら開いた単行本、あと1話の厚みじゃなくない…?と思い至る。最後の方のページ数をこっそり見てみたら60ページ超…!!心して読ませていただきます…!!
いのりちゃんが心に負った深い傷はいるかちゃんが負った大怪我と同じタイミングでレジリエンスしていくためのものであることを知った。司先生が自分と同じ気持ちになってそこからレジリエンスした経験を話してくれて、自分が幸せな選手になればいいという単純明快な答えにたどり着いてぱっと明るくなるところ、すごく素敵だった!! 迷子アプリのアイコンがキスして嫌がってるいのりちゃんの写真なのかわいかった😂😂
実叶ちゃんが病室にやってきて顔を出さないけれど帰っていくところ、自分を明確に愛してくれている五里コーチが同じものを買ってきてくれて、実叶ちゃんも自分に愛情をくれたんだって気づいて立ち上がるところ、うわあああああ!!!!!!ラインに2:50まで溜まった母親の13件のライン、そんなもん寄越されてたら誰だってかわいそうと思ってほしいと思うよ!!!いるかちゃんは本当にかっこいいよ!!そして可哀想と思われなくてもいっぱい実叶ちゃんに甘えておくれよ!!!やっぱりいるかちゃんが実叶ちゃんといのりちゃんと幸せな思い出作る話描いたる!!世界の一欠片として愛を届けたる!!!待っててね!!!
総評
いのりちゃんがレジリエンスを得る道筋が見えたとともに、いるかちゃんがリンクに帰ってきて大活躍する未来もはっきり見えた!!!「私が推しになったキャラみんな死ぬんだけど」枠では決してないことが確信できた!!!待ってるからね!!
実叶ちゃん、五里先生、司先生、みんな愛の伝え方が違ってみんな良かったなあ…見習いたい…😌
追記 BOW AND ARROW原作コラボMVを観て
13巻を読んだあとこのMVを観た。マンガが…!!動いている!!いや、アニメになってるのとはまた違っていて、原作の絵のまま、2次元のまま3次元の動きが垣間見えるMVが凄まじかった…!! 12巻ラストのいのりちゃんのモノローグ「どんな道を選んでも きっと傷つくこと 辛いことはあるって知っている それなら私はこの冷たくてまっしろな氷の上で傷つきたいんだ」で締めくくられていて、49話の辛さに吹っ飛んでしまった滑走前のいのりちゃんの覚悟を思い出した。その覚悟の通りの事が起こってしまって、やっぱり大人の前で気丈な振る舞いを見せてしまって深く傷ついてしまって冷たい気持ちになって、でもこのいのりちゃんの覚悟をノンバーバルに共有していた司先生が寄り添ってくれてまた立ち上がれた、その一連がこの13巻で描かれたのだな、ここからもっといのりちゃんは強くなるぞ…!!と改めて思った。この先も追い続けます。
さらに51話を読み直して追記
51話の初見の感想に書き足すのは憚られたので追記。50話で「いのりちゃんが『どうやるの!』って思わず叫びたくなるようなスケートをする!」って言って宣言通りいのりちゃんに「なんで そんなジャンプが跳べるの?」って叫ばせる圧倒的なジャンプを見せつけたのが凄まじかったな…初級合格前のいのりちゃんじゃなくて、4回転跳べてジュニアグランプリファイナルに出場を決めたいのりちゃんなんやで…!!4回転ルッツ降りたときの光ちゃんが、私が大好きだった心を燃やし続けるいのりちゃんに戻ってきて…!!という切実さを湛えて、涙を溜めているように見えるのも圧巻だった…!!最初にいのりちゃんが完敗した全日本ノービスの光ちゃんの滑走を読み返さないといけない…!!
そしていのりちゃんを夜鷹純と重ねて見ていた光ちゃんが、どん底に落とされたいのりちゃんの姿が夜鷹純とは違うのに、そのいのりちゃんが好きだったことに思い至って、一方スケーターとしての自分も、夜鷹純から旅立ち自分のアイデンティティを形成し始めて、夜鷹純の役割が完全に終了して退場していく流れ、物語が次のフェーズに進んだ感じがしてとってもワクワクする…!!読者視点でも、これまでが司先生と光、夜鷹純といのりちゃんという二項対立を提示されて納得しながら読んできた基礎編で、ここからはもっと二人のアイデンティティがブラッシュアップされていく応用編が始まっていくんだね…漫画がお上手すぎる…!!笑
いのりちゃんにフォーカスした感想も再度。これまで何度となく心を燃やすいのりちゃんを見てきたのに、ここでまた光ちゃんの演技を見て心を再燃させるいのりちゃんが、ユーフォのうまくなりたい橋のようで圧倒された…!!そして間違った感情で頑張ろうとするいのりちゃんを正しい方向に導く司先生、その言葉をメリーゴーラウンド前で受け止められて顔がぱっと照らされるいのりちゃん…うおおおお!!!
なんか初見の感想と同じようなことを言ってしまったような気もするけれど、何度読み返しても新鮮に感銘を受けさせられるこの13巻、もし未読の方がこのブログを読んでくださっていたとしたら、こんだけネタバレを受けても新鮮な感動(というとむしろチープな気がするから他の適切な言葉を使いたい…)が味わえると思います。
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