読み鍋屋

杓子を逃げしものや何

執筆者-杉田 広司

出窓からの手記

先日の雨で一気に冷え込んだ街を男は一人歩いている。安物の上着をいくつも重ね着しているせいで着ぶくれしていて、下半身の細さと不釣り合いで少し滑稽に見える。 前から風が吹きつけ男の顔を冷やす。男の鼻と耳は、蒼白な顔面とは対照的に赤くなり、もう触…

二十代の思い出

昼下がり鈍色の空が明けていく。恐らくは夏の象徴であったであろう厚い雲も晴れて、ここ一週間は急に寒くなってきた。 たまった洗濯を済ましたときにちょうど晴れたので、私はつい気分がよくなってしまった。午前中の憂鬱な気分は晴れ、やはり人はお天道さま…