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牝鶏nの微睡#番外編 短答式試験合格者採用で論文式試験に受かった話

8月下旬の試験も終わり、論文式試験受験者は就活真っ只中と思う。

僕は最初の論文式試験で一度落ちて、短答式試験合格者採用で働きながら二度目の論文式試験で合格したので、その時の話を少ししようと思う。働きながら論文式試験合格を目指すことは可能なのか、可能にした側から思ったことを書いていく。

短答式試験合格者採用とは

論文式試験合格発表後、すぐに論文落ちの短答合格者に向けた枠の案内がメールで来る。僕の年はBig4すべてが出していたが、この枠は本当に年による。全くない年もあるというからこればかりは運だ。採用条件はどこも大体同じで、①9時-17時周辺の定時勤務で残業なし②試験前3ヶ月(5月下旬から試験最終日まで)の試験休職③休職中も給料が支払われる、というものだ。監査とは無関係の事業会社で働き続けて試験に挑むよりは全然いい条件だ。ちなみに試験合格後はそのまま正規専門職員として働ける(一応継続かどうかの意思確認をされる、他監査法人に行きたければそれも別にかまわないとの話だった)ので改めての就活は不要である。

ここが結構大事なんだけれど、合格発表前の面談や説明会はできるだけ多く出た方がいい。短答枠での採用面接はあるにはあるけど1回きりで、感触としては誰を採るかは面接の前にほぼ決まっているようだった。

〇単なる確率から言えば、専念した方がいい

僕がまだ大原簿記にいた頃は、短答式試験に受かってから1度目の論文式試験で落ちた人が2度目で受かるのは大体9割と講師から言われていた。少なく見積もっても7,8割は受かる。しかし、働きながら勉強した場合に受かるのは多く見積もって5割だ(実際僕が内部で聞いた話や見たことを総合してもそんなに間違っていないと思う)。

〇それでも働きながら勉強する理由

僕は既卒で社会人経験もある。僕が監査法人入社で配属された事業部での採用は僕を含めて6人で、同じように前職がある受験生はもう一人、あとの4人は既卒の専念生だった。他の人の事情はよくわからないが、卒業してからも親の脛を齧る後ろめたさから働きながら勉強することを選んだと話す人もいた。

僕があえて短答合格枠で働きながら勉強することを選んだのは、もともと前職を辞めてバイトで食いつなぎながら会計士試験にチャレンジしていたからだった。当時、仕事内容を退勤後も全く考えないでいいという理由で事務系でなく飲食系のアルバイトを掛持ちしていたが、時給の高い仕事はやはり夜であり(それ以外は最低賃金)午前3時まで働くという生活で規則正しい勉強・睡眠時間が確保できなかった。そのため、短答合格枠で就職し勉強するほうが随分マシな環境だったというわけだ。つまり、当たり前だが受験に専念できるならした方がいい。

上記のことは割と他の人も話していることではある。それをふまえ、短答合格枠から論文式試験に合格するルートは向き不向きが極端だと思ったのでそのことを書いていく。

〇僕が短答合格枠に向いていたと思うところ

  • 外的圧力がモチベーションになる
  • 家族や受験仲間など日常で会話する相手が皆無
  • 絶望的に経済状態が悪い

・外的圧力がモチベーションになる

これは、チームのメンバーから圧力をかけられた方が頑張れるということだ。

就職後は他の職員と同じように僕ら短答合格枠もチームの一員(監査補助者)として監査業務に従事する。勿論チームの方はすごく気を遣ってくれて監査論に出そうなところや最近変更があった会計基準の話を振ってくれる。夕方に僕の作業のミスが見つかっても僕を残業なしで退勤させるために全部巻き取ってくれる。この罪悪感たるや!すみません、すみませんと各所方々に頭を下げながら事務所を出る、そのまま家に帰るとダレてしまって勉強しない…のが怖くて遅くまで開いている喫茶店に駆け込み、閉店まで勉強するという流れが繁忙期は結構な頻度であった(大原簿記の自習室は当時事前予約制で微妙に事務所から交通の便が悪く、休職期間に入るまで平日はあまり使わなかった)。申し訳ないからといって泣いていたり落ち込んでいる暇はないのだ、チームへの恩返しは合格より他にない…!

他にも、本当の本当に僕を安心させよう、元気づけようとして、「うちのチームは修了考査も全員受かってるからうちにいるなら受かる」「君が落ちたら、会社から責められるのは俺らだから。君に仕事をさせ過ぎたって」と言われたことがある。もう頑張るしかない、落ちることは許されない…!

僕はそういう善意の結果生じた圧力が割と好きで、今もたまに思い出しては元気を出している(ちなみに上記の言動をとったチームメンバーは今も元気に僕の指導をしてくれていて、僕はたまにこの話を持ち出すことがあるが、繁忙期が限界に忙しかったからか誰も覚えていない、悲しみ)。

次の項目で詳しく書くが、日ごろ特にコミュニケーションをとる相手もなく勉強を続けているとやっぱりどうしてもダレてくる。心身の不調が顕著になり、机の前に長く座っていることが以前よりもはるかに苦痛になる。受験期の鬱状態は大抵勉強しかすることがないという閉塞感と脳みその一部(例えばコミュニケーションをとるための部位など)をほとんど使わないアンバランスな状況から来ると考えられる。振り返ればチーム内でコミュニケーションを取る一方で発破をかけられたことがこういう不利な環境を大幅に改善したと思う。

・家族や受験仲間など日常で会話する相手が皆無

家族や受験仲間など僕の状態をわかって支えてくれ、いつでも割と気軽に話ができる相手がいなかった。複雑な家庭環境のため血縁とは連絡も取っておらず、既卒前職ありの僕は大学生ばかりの大原簿記では普通に浮いていた。当然試験勉強の話をする相手もいない。ただでさえ精神的に過酷な長丁場の試験期間にこれは堪えた。僕はずいぶん病んだから状況をわかってくれる人が身近にいるだけでも短答合格者枠で働いたことは僕にはとても良い効果をもたらした。

ちなみに、病むというのは僕の場合は蕁麻疹が出続けたり喉のつまりが取れなくなったり(俗にヒステリー球というらしい)眠れなくなったり虫の大群が視界の端を通り過ぎる幻覚を見たりすることを指している。振り返るとよく耐えたと思う、もう降りられなくなっていただけかもしれないけど。

・絶望的に経済状態が悪い

これはもう良いところというより仕方ないところに当てはまるものだが、僕は正社員を辞めてバイトで自転車操業の受験勉強だったからとにかく金がなかった。通りかかった軒先に「ご自由にどうぞ」の品々があれば持って帰ってメルカリで売ったり、スーパーの「ペットのうさぎさんにあげてください」のキャベツの外葉を持って帰って食べたりしていた。服は住んでいたシェアハウス(水光熱費込みで3万円)でTake Freeと書かれて廊下に出ていたものを拾って着ていた。絵に描いたような貧乏生活である。僕より同じシェアハウスのマレーシアの留学生の方が幾分いい暮らしをしていた。金に窮するとただでさえ精神状態は良くないのに余計な悩みが増える。一説によれば経済的な悩みが一番人間の外見を老けさせるらしい。

そんなこんなで朝は出来る限り事務所付近のドトールに寄って7時の開店から勉強し、それから9時5時で働き、退勤したら夜はタリーズに寄って閉店まで粘ることを繰り返した。休職期間中は神保町まで通勤定期を買い、毎日朝から晩まで自習室で勉強した。
朝夕のカフェでの勉強はちゃんと給与をもらえていたから出来たことだし、通勤定期を買って自習室に通い、ほとんどの食事を自炊せず外食やコンビニに頼れていたのも休職期間に変わらず給与が出ていたから出来たことだ。

確率で言えば、働いている人の論文式試験合格率は50%だ。でも、僕の場合は「働いていたから受かった」と確信を持って言える。僕の合格は、就業時間から職務内容まで心を砕いてくれたチームの方々のおかげだし、毎月安定した収入をもたらして生活を支えてくれたうちの法人のおかげだ。

でも、意図的ではないにしろ外圧がかけられることに弱かったり、そもそも家族から精神的・経済的なバックアップが望めたりするなら無理して短答合格枠からの論文合格を狙う必要もないと思う。やっぱり働いている分勉強にかけられる時間が短くなるのは事実なので。

だから、あんまりマクロな確率を気にせず、自分ならどういう環境だと一番頑張れるのかということをよく考えて選択するのがいいと思う。

長々と書いたけど、でもやっぱりもう今年受かってるのがいいよね。合格祈願!