読み鍋屋

杓子を逃げしものや何

所在ない夜に聴く赤い公園

はじめに

史上最高に暑い夏がようやっと終わったと思ったら、急に肌寒い秋がやってきた。先週からいきなり金木犀の香りが漂い出したことや、お気に入りの秋服をクローゼットから引っ張り出すことのできる喜びと同時に、ふと自分の孤独に対面して、ただやり過ごすには長い夜がやってきた。ここ数年毎年繰り返しているのに、毎年所在なく心細い気分になる。そんな気分になるのはたぶん、この季節の冷え込みのせいだけではなくて、私の敬愛する赤い公園津野米咲さんがこの世を去ってしまった季節だからだと思う。去年はそんなことを考える暇なく本業がいそがしく、一昨年はむしろ命日を境に気温が下がったことが気持ちの切り替えのきっかけになった。

そういうわけで今年ようやく平常運転で秋を迎えた。この記事は津野さんの命日に津野さんに思いを馳せるために書いているけれど、そういうコンテキストを抜きにしても、赤い公園には静かながらも聴き応えのある曲が多い。それまで基本的にアップテンポな曲ばかり気に入って聴いてきた私が、穏やかな曲も好んで聴くようになったきっかけは赤い公園だ。たまたま私が聴き始めたのが一人暮らしが本格化した頃だったというのもあるけれど、元気な曲から穏やかな曲まで守備範囲が広いからこそ、赤い公園から穏やかな曲に手を伸ばすようになったと思う。

ということで、私のように、冷え込んで所在ない夜を迎え始めた皆さんに、そんな夜を伴走してくれる赤い公園の楽曲を紹介する。ここに挙げた曲だけだとちょっと駆け足な感じがするけど、順番に聴いて調子を取り戻しやすいよう、穏やかな曲から元気な曲の順に並べていくので、気分に合わせて聴いてみてほしい。

牢屋

レコードに針を載せたときみたいなノイズ音から始まり、ずっと夜の静けさに溶け込みながら進んでいく。なーんもやる気が起きなくて、自分が床に横たわった生ゴミみたいに思えたときに、一緒にハハッと笑い飛ばしてくれる曲。別にそんな時があってもいいじゃないか。1日に4回も5回も聴きたくなるようなヘビロテ曲じゃないけど、着実に定期的に聴きたくなる。

贅沢

リコーダーみたいな音色のアンデスという楽器の伴奏が心を落ち着かせる。それでいて他の曲と同じようにギターも躍動している。2番で演奏のギアが上がるのも楽しい。歌詞の内容はちゃんと考えたことがあまりないんだけど、ついつい演奏を聴き入っているうちに穏やかな気分になっている。演奏をじっくり聴いているうちに調子を取り戻している系でほかのおすすめは、「108」「POP STAR」あたりかなー。

Highway Cabriolet

うまく行かない片思いをしているときに最適な曲。誰か寄りかかりたい相手がいないときも心細いけど、寄りかかりたい相手が見つかったけど寄りかかれないのもまたしんどいよね。でもそうでなくても夜にぴったり。

読みは「ハイウェイ カブリオレ」。この単語をちゃんと綴れる人は、赤い公園好きか、車好きか、フランス語が話せる人だと思う。笑 カブリオレとはオープンカーのことで、思いを馳せている人とオープンカーデートしながら、この人が振り向いてくれればいいのにな、と切ない気持ちを心に秘めた主人公を歌っている。次々と過ぎゆく高速道路の灯りを表したようなベースをバックに、成就しないことを悟って低いテンションを表現したような穏やかな演奏で始まる。Bメロからサビにかけてその人への想いが高まったかのように盛り上がり、また戻っていくけれど、最後のアウトロではそれが抑えられなくなったかのような激しい演奏になり、そんな感情を載せた車が夜の街に溶け込んでいくのを見届けるように曲が終わる。美しい。「いちご」「石 (broadcast edition)」「輝き (broadcast edition)」と一緒に聴くのがおすすめ。

ナンバーシックス

あれこれ考えずに脱力して愉快な気分になりたいときの一曲。私にとっては「NOW ON AIR」と「恋と嘘」だけ知っていたときに「絶対的な関係」 と並んでバンドの幅広さを知り、一気に赤い公園のことが好きになったきっかけの曲。2分もない曲なのであんまり重たい曲を聴けない状態でもサクッと 聴けます。初期の赤い公園には短い曲がたくさん。「血の巡り」「クレンジングラブ*1」の間に挟んで聴くのがおすすめ。

黄色い花

押し付けがましい励ましを受け付けられないくらい、周りが見渡せなくなったときに、目に届くところにそっと寄り添ってくれる、ダンサブルな曲。「せめて咲いてるたんぽぽでありたい」というフレーズが素敵。一時期そういう気分のときに寄りかかりすぎて、そうでない時に遠ざかっていたけど、ラストライブで理子ちゃんが「楽しい曲」と紹介してくれて、そうだった、この曲は楽しい曲だった!とどんなときにも聴けるように戻った。「KOIKI」「NOW ON AIR」と一緒に聴くのがおすすめ。

凛々爛々

自分の至らないところにばかり目を向けてしまうときに、まあ人間そう完璧なわけないんだからマイペースにやってこうよ、と背中を押してくれる、疾走感のある曲。津野さん自身も「この曲は、凛として日々を過ごすための、ちょっとしたお守りのようなものです。」と言っていたよ。私の座右の銘です。

終わりに

サブスクで聴ける曲縛りで選んでみた。これまで数曲しか赤い公園を知らなかった人や、最近赤い公園の曲を聴き始めた人に、赤い公園の曲の幅広さを感じつつ、細かいシチュエーションに合わせてこの季節を乗り越える一曲を見つけてもらえたら嬉しい。
とはいえ、新たな楽曲はもう増えないから、去年や一昨年に書いた記事と被る曲も結構あり、毎度赤い公園の記事を読んでくださる(主にTwitterの)フォロワーの皆さんには少々物足りなかったかもしれない。笑 でも最近、仲良くなった人が赤い公園を知っていることが多くて、その人と好きな曲の話をすると、自分があまりマークしていなかった曲が挙がってその曲を聴く機会が増えるようなことが度々あった。だから、年1でこの人はこんな曲好きって言ってたな、また聴いてみようかな、と、この記事をきっかけに聴き直す曲を見つけてくれたら嬉しい。いざ選び始めると20曲くらい選びたくなっちゃったので笑、きっと「私はあの曲で元気出す!」という曲がほかにもまだまだあると思う。是非教えてほしいです!

あれこれ新しく好きなもののことを呟いたり日常ツイートをしたりしても、今も赤い公園つながりのフォロワーの皆さんからの反応が大きい。毎度ありがとうございます、今後ともご贔屓に。

*1:竹達彩奈さんの曲だけど、作詞作曲・津野米咲で演奏は赤い公園