読み鍋屋

杓子を逃げしものや何

「シン・ウルトラマン」最後の戦いには科学者の興奮を感じざるを得ない

「シン・ウルトラマン」を公開翌日に観に行って早2週間。ようやっと忙しさが一段落したので、本作を観てから温めていた感想を書きたいと思う。とは言っても大体のことは先客たちがだいたい自分の言いたいことを言ってくれているので、本稿では今まであまり見かけていない、終盤の戦いが科学者目線に立つと激アツだという話を書かせていただく。

なお、次章から終盤の戦いに関するネタバレを行うので、未見でネタバレを喰らいたくない方はここで引き返していただきたい。それと10日以上前の記憶で書いてるのであらすじも細部が適当かもしれない。

※※以下、ネタバレ注意※※

さて、最後の戦いというのはゼットンとの戦いのことを指している。ウルトラマン単独で、大気圏外に浮かぶ巨大なゼットンには到底太刀打ちできず、治療を受けながら眠る。神永はウルトラマンとして戦いに出る前に、ベータエネルギーに関する科学的な理論をまとめた論文を、ヒントとしてUSBメモリに込め滝に託していた。メモリに保存されたファイル開いた滝はそれを理解して緊急の国際会議を開き、ゼットンを倒す方策として、ベータカプセルを2回押し、自分もろともゼットンを亜空間にワープさせる作戦を採用すると結論付けた。

ここでの科学的な議論は、滝がVRバイスをつけて身振り手振りでオンラインの議論相手に英語で議論するという様子しか映されておらず、具体的にどんな人達がどのくらいの人数集まって議論を繰り広げていたかはわからない。しかし得られた結論から想像するに、私は以下のような議論が繰り広げられていたのではないかと想像して、議論の中心にいた科学者たちの興奮を感じ取らずにはいられなかった。

まず「ゼットンを亜空間に飛ばす」ことと、「ウルトラマンが自律運動できずに亜空間に吸い込まれていく」様子を見ると、ウルトラマンが直接的にしたことは「ブラックホールを人工的に作る」ことだったと思われる。高校地学の記憶と、小中学生の頃に読んだニュートンムックの記憶を頼りに軽く説明すると、ブラックホールとは、非常に密度の高い天体で、その重力のせいで光を含むあらゆるものを自分に引き寄せてしまうという代物である。すると無限に質量が増していくということになるが、実は引き寄せられた物質は、ワームホールでつながった遠くにあるホワイトホールという出口に移動して放出されるそうだ。

ゼットンを倒すにはこれしかないということだったのだと思われる。重力でゼットンブラックホールに引きずり込み、地球の影響範囲から排除する作戦だ。

さて、現実にもブラックホールが形成される原理は、おそらく天体物理学で議論されている。ブラックホールは、こうこうこういう流れを経て形成される。しかしそれは普段身の回りで起こる現象に比べて物理量が桁違いであり、人間には到底実現できない世界が広がっている、ましてや人工ブラックホールなんか作れるかどうかを検討したことすらない、みたいな感じだと思う。

そんなところにその物理量を実現するチャンスを持った宇宙人がやってきた。しかも本人がベータエネルギーの仕組みを人間に読みやすいよう論文にしてまとめてくれた。そしてベータエネルギーを用いた時に、ウルトラマンがこういう速度・タイミングでゼットンからこの距離で事を起こせば、ブラックホールが形成される、そして観測的事実からウルトラマンはそれを実現するポテンシャルを秘めている…!

おそらくこんな流れの議論を天体物理学者たちはしたのだと思う。あと素粒子学者とか。6次元うんぬんのくだりは全く理解できていないが、5以上の次元の話は超ひも理論という素粒子理論で聞き覚えがあるので彼らの出番だ。両方とも科学者の中で最も頭の良い部類の人達がやる分野だ。あのシーンはまさに世界一の頭脳が集まって議論を繰り広げていたのであろう、その規模は一般的な学会の開催規模から想像するに数百人から数千人が参加していて、その中で特によく発言する数人から十数人くらいが理論を構築していったのであろう、そしてその中心にプレゼンターとして活躍したのが禍特対の滝だったわけだ。

しかしそう考えると、滝ってあらゆる分野の物理の知識をあれだけ持っている世界有数のスーパー科学者だったのだなあ。すごい。

全然その分野のことを知らない筆者が想像で書いてみたので、実際どう議論が形成されるか考えたい人は以下の本あたりを読むといいと思う。それで私の想像が正しかったのか教えて欲しい。