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漫画「五等分の花嫁」のコマ割演出がすごい! その1 ~好きなコマ割10選~

はじめに

アニメ「五等分の花嫁」をアマプラで観てすっかりハマってしまった。最初はラブコメディお決まりのシーンの連続をメタ的に楽しんでいたり、赤点なんだからちゃんと風太郎に従って勉強せえ、とやきもきしたりしながら観ていたが、やがて各キャラクターが魅力的に見えてきて、2期に入ってからニヤニヤが止まらなくなっていった。本作に関する色々なサイトを巡り、やがて原作漫画の画像を目にするようになり、その躍動感あるコマ割に惹かれて原作単行本にも手を出したくなり、読んでみたところ、最初に目にした画像に負けず劣らずの生き生きとしたコマ割の連続であった。久々に漫画を手にとったが、こんなに躍動感あるメディアだったかと思うくらいだ。

アニメと漫画とを見比べたことで、本作の魅力はキャラクターや話の展開やキャラデザもさることながら、原作者・春場ねぎ(以下、親しみを込めて「ねぎさん」と呼ぶ)の演出力が非常に大きいことを確信した。コマのサイズの範囲が幅広いので、小さなコマの連続の後に大きいコマを見せることで、特に重要なシーンがとても際立つ。また、引きの絵などのコマの中にできる余白に下から人物などをはみ出させることで、はみ出た人物に迫力も出る。私は普段ドラマやアニメなどの画面越しに楽しむメディアばかり触れているが、これらのメディアと不可分な一定のサイズでの画面づくりは不利なんじゃないかと思い至ったほどだ。また、基本的に同じ形のコマを並べる誌面づくりをしないので、どの順番にコマを追っていけばいいかが分かりやすいため、余計なストレスを感じさせない。

こうしたねぎさんのコマ割の魅力について、どのコマ割が好きだったか、共通する技法は何か、他の作品と比べてどうなのかなど、色々と話したい話題が出てくるのだけれど、初回である本稿ではまず好きなコマ割りを10個、掲載順に紹介したい。本稿では構図をトレースしてネーム風にして、人物が誰か、どこで何が起こっているのかは極力わからないようにご紹介する。これはネタバレ防止のためと、単純な図形に置き換えてキャラクターやストーリーの魅力になどに注目されず、構図にフォーカスしてもらいやすいようにするためである。もちろんキャラクターやストーリーも本作の魅力の大きな部分を占めているので、そうした要素は原作でお楽しみいただきたい。なお、赤い輪郭の図形はセリフやモノローグの吹き出しである。

1. 1巻 46-47ページ

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引き→目線→引き、しかも斜めにコマを区切ることで密度の高い画面に仕上げている。次ページの見開き4コマ、さらにその2ページの見開き1コマ、逆目線からのトドメの1ページ1コマと、大ゴマによる畳み掛けが読者のテンションを上げる。

なお、この見開きページが登場する1話と、2つ目に紹介するページが登場する2話は講談社が公式で運営するサイト「マガポケ」で試し読みできるので、本物も合わせて御覧いただきたい。

pocket.shonenmagazine.com

2. 1巻 57ページ

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2話の見開き絵。頭部を縦に5等分して姉妹全員を並べている。それぞれのキャラクターが一部しか見えず、アタック25の様相を呈しているが、5分の1でも各キャラクターの特徴となるアイテムや髪型が含まれて見分けられるようになっており、本作のキャラデザは5人の差別化という点でも優れていることが示されている。特に左から2番目の二乃と4番目の四葉は目の開き具合や眉の形も違う。区切られた領域が輪郭を取らずグレーに塗りつぶされているのもオシャレ。

3. 1巻 183-186ページ

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ノローグ、各人物の動き3コマ、大きく表情を映すコマで1ページを構成し、それを4人分・4ページ繰り返している。4~5人を対比する場面は、1ページや見開きページをおおよそ等分して整列させる手法もしばしば採用されており、いずれも同じレイアウトを繰り返すことでテンポ良くすっきりと仕上げている。逆にこうした場面でしか長方形のコマを整然と並べるコマ割りは登場せず、多人数の登場人物を対比するシーンや、同じ構図で時間のみが進むシーンをテンポよくすっきりと描いている。このようなコマ割りは1巻48-49ページ、2巻188ページ、3巻110-111ページ、3巻115ページ、5巻35話58ページなどでも見られた。

4. 2巻 125ページ

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おおよそ正方形のコマで4人の表情を示し、超縦長の3コマで一人の全身、2人が対面している全身、顔の目元アップを示し、最後に次のページに繋がるセリフの吹き出しで締める。各コマのサイズが必要十分で美しい。4人のコマがただの長方形でないのも画面の単調さが減っており白眉。

5. 2巻 179ページ

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ねぎさんの必殺技、コマまたぎの真骨頂。上から下に向けて時間が進む、その時間中同じ姿勢を取り続けるキャラクターを真ん中で大写しにし、表情変化をコマいっぱいに、道具の様子は引きの絵で見せる。全部で10コマある複雑な並びなのに、とっ散らかった印象は受けず、何が起こっているか、キャラクターの心情変化はどうかを最大限伝えてくれる。

6. 3巻 63-64ページ

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3つ目に紹介した、時系列を同じ形状のコマで繰り返す技法の類例。夜のシーンなのでコマが暗い。このシーンにおける主役キャラクターの移動に伴い、部屋を出てから戻るまでの動きが廊下全体を見せる画角のスナップショットで表されている。スナップショットの最後の場面でのキャラクターの様子が大きく描かれて、迫力のみならずその仕草の魅力がよく伝わってくる。ちなみにこのページは見開きではなく表裏であり、人物像の大ゴマが先に目に入らずに時系列に注目できる配慮も十分。こうした時系列変化を同じ画角のスナップショットで見せる手法は1巻124ページ、同140ページなどでも見られた。

7. 4巻26話 55ページ

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オブジェクトのみを描いた部分も一コマと数えると、このページのコマの数は8コマと多く、しかも規則的な並びではない。にもかかわらずどの順に読めばわかりやすく、大ゴマも配置されている。特にこの26話では20ページ中8ページが8コマ以上と多数のコマから構成されている。しかも同じ回で2ページは見開きに使用しており、ページあたりのコマ数の緩急が鋭く、見開きページの迫力が一層強調される。

8. 4巻28話 98-99ページ

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必殺コマまたぎ、見開きページでのイチオシ。やはり引きの絵、部分アップの緩急が巧みで、見せ場ポーズの迫力もすさまじい。これは6と異なり見開きページだが、このパターンではまず最初にこのページ一連シーンのハイライトである真ん中の2人が目に飛び込み、何があったかをまた右上から追い直す読み方もできる。このシーンのみならず、キャラクター同士の関係性が動く出来事のあるシーンではねぎさんのギアが一段上がっている気がする。

このページに続く100-101ページも良き。当該シーンのアニメの演出もあれはあれで良かったが、環境による隠喩とのシンクロは漫画のほうに分があった。まああの演出をアニメで再現するとしたらどうすべきだったのかは難しい問題だ。

9. 4巻121ページ

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本作はそれまでに登場したシーンの回想が少ないように思うが、その回想の魅せ方が鮮やかである(そろそろ称賛のボキャブラリーが尽きてきた笑)。私がこのページのコマ割をする想像をして真っ先に思いついたのは、大きな長方形、小さな長方形、縦長の長方形の3コマ構成だが、表情が見えるギリギリを攻めるコマの切り方で斜めにすることで、表情アップのコマは迫力を最大限出力しつつ、次々と引き出される記憶がスピード感を持った。しかも思い出している各場面の大きさの違いは、本人にとっての各エピソードの重要さと経過時間によって違うということも伝わる。

実は本作の回想の演出の良さを紹介したいと思うに至ったのは、10巻176-177ページがあまりに美しく印象に残っていたからなのだが、この話数になるといよいよ物語も佳境に入りだすし、ネーム風の画像でも何をしているかが分かり、そのインパクトは最低限伝わってしまうので、採用を見送った。ぜひとも順番に読み進めてたどり着いてほしい。

10. 8巻43ページ

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まさか8巻に至るまで複数の五角形で五つ子を囲むアイデアを温めていたとは!!めちゃめちゃ良くない?!底部がどっしり構えていて上部は収束していく五角形、コマの形としてとても優れているのでは…?!おそらく余計な余白を作らない並べ方が難しいから敬遠されているのだが、ここまで四角形でも様々な切り出し方をしてきたねぎさんには朝飯前。

いやあ~五つ子×五角形か~~5の要素を使うのがお上手すぎるなァ~!!一人取り上げられなくて4人の時は4等分、見開き2人×2ページができる(例:1巻48-49ページ)し、5人並べて1人だけ強調したい時は見開き3人×2ページで1人は幅2倍にできる(例:1巻152ページ)し、1個だけ別のシーンを挟んでから5人並べるのも縦3分割×2ページでできる(例:3巻110ページ)し、主人公を5人にするのは漫画というメディアにとって数学的に最適な人数なのでは?!

終わりに

まずは10個、特徴的なコマ割をご覧いただいた。今後は他の漫画と比較しても「五等分の花嫁」は変わったコマ割を施しているのか考えていきたい。また、五等分の花嫁に関しては、5人の並びから統計的にゴールインするキャラクターが予測できないかなど話題が尽きないので、劇場版の公開まで少しずつ記事にしていきたいと思う。また、本記事で構図にフォーカスしてもらうためにネーム風の画像にしたのに、画像の絶妙な不気味さや筆者の絵心の無さが悪目立ちしているじゃないかとか、この画像を作るに当たって使用したパワポが色んな便利機能を備えていたとか、この記事を作るに当たっての裏話を副音声的にお伝えする記事も書きたい。乞うご期待。