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アニメ「その着せ替え人形は恋をする」をおすすめする6つの理由

2022年1-3月期に話題になっていたアニメ「その着せ替え人形(ビスクドール)は恋をする」を観た。1クールで終わるには惜しい、続きもアニメ化してほしいと思う良作だったので、かいつまんでおすすめポイントを述べる。

1. 人の好きなものを受け入れる姿勢が良い

本作の主人公はコスプレに憧れる、見た目はギャルで中身はオタクの女子高生・喜多川海夢(きたがわ・まりん)と、ひな人形の職人の家に生まれ修行を積む穏やかな男子高校生・五条新菜(ごじょう・わかな)の2人である。

新菜は日本人形の顔を描くことに心血を注いでおり、自分の描いた描いた人形に愛情を注いでいるが、小さい頃に幼なじみから女の子っぽいと嘲笑されたことがトラウマで、人にその趣味を明かすことができずクラスメートともほとんど会話をかわさないでいた。対して海夢は好きな作品のキャラクターの姿になりきるコスプレイヤーに憧れているが裁縫の腕はからっきしで誰かの助けを求めていた。

そんな二人だったからこそ、いやそもそも彼らがこうした背景を持っていなくてもそうだったかもしれないが、お互いが相手の心血を注いでいること、愛でているものに対するリスペクトを持っているのが観ていて心地よかった。

2. 恋愛描写が素敵

これは詳細に書くとネタバレになってしまうから書けないけど、タイトルの通り本作では登場人物の恋模様が描かれる。わりと素直に恋愛感情が芽生えるし、その対象はそのくらい素直に好かれることに説得力がある人物描写がされているから、心地よく見守っていられる。海夢が恋心芽生えるまでは手を握ったりとか間合いが近いのに、意識しだした途端にそわそわするところ、モノローグで振り切って好きを溢れさせるところが良い。典型的なキャラ付けからの逸脱が良き。五条くん、モノローグには煩悩が垣間見えるけどめちゃ紳士。

外見はギャルだけど中身はオタクの海夢と、ひな人形店で育って手先が器用で、穏やかで優しい少年という組み合わせの実現性はかなり低い一方で、彼らが抱く心情描写には説得力があり嘘がないためにすんなり受け入れられるのだと思う。

3. 声優陣が良い

海夢が、ギャルだけど仰々しくなく等身大の女子高生に見えるのは、海夢の声がそれに説得力をもたせる声であることもすごく貢献している。新菜も声のトーン、テンパったときの上ずりとか、冷静なときの低めでかっこいい声の緩急が良い。海夢と新菜をそれぞれ演じる直田姫奈さん、石毛翔弥さんは、私が本作で初めて認識した声優さんだが、どちらもハマり役で、これまでの実績とか関係なくしっかりと選ばれたのだなあ、という感じがする。

4. 作画が良い

細部に神が宿る作画。1話の冒頭1分半で登場人物の髪が揺れるところからしてすでに、ただならぬ作画コストを感じる。通学路で追い抜いていく高校生がバックで歩いてきて振り返って走っていくところとか芸が細かい。目元アップがきれいなだけでなく、引きの絵も丁寧に描かれている。

こんなに細かく動かしちゃ、作画枚数がえらいことになっちゃうんじゃないの、と思ったら、主人公が自宅で横たわってぼんやり考えるシーンなんかはほとんど口元しか動いていなかった。でもこのシーンに動きが少ないのは必然なので、話を通した動きの少なさは感じさせない。つまり作画コストをかけるシーンとかけないシーンとの緩急がうまいのだと思う。

制作会社は現在SPY×FAMILYをWIT STUDIOと共同で手掛けるCloverWorks。納得である。

5. ED主題歌がめちゃめちゃ良い

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ED「恋ノ行方」は、穏やかな曲調でオーソドックスなコード進行とメロディながら、ビートとシンセサイザーの音がめちゃめちゃ心地いい。アニソンラブソングとして「恋愛サーキュレーション」に並ぶとも劣らない名曲。それにフィットするデフォルメされた主人公たちが大変かわいい。クレジットは無地の背景に書かれるのでストレスがない。

歌っているのはtiktokでめちゃめちゃ人気のあるコスプレイヤーさんらしい。実写MVでは実際に海夢と彼女が作中でするコスプレをしているが、それがめちゃかわいい。

youtu.be

ショート動画の振り付けがキャッチー。なるほどこれがアルファティックトッカーか*1

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6. YouTube企画「その主人公声優は服を縫う」を観るとレイヤーへの敬意を抱かざるをえない

五条新菜役の声優・石毛翔弥さんが作中のコスプレ衣装を実際に作る企画が、そんじょそこらの番組連動YouTube番組とは比べ物にならないほど気合が入っていて見応えがある。

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作中でも五条くんが苦労しながら衣装を作り上げる描写はされていたものの、その制作シーンが描かれたのはせいぜい10分そこそこだった。まあアニメのシーンとしては過不足なく丁寧に描かれていたと思うが、このYouTube番組は裁縫経験が殆どない石毛さんが、本物のレイヤーさんを講師に招いて3ヶ月かけて衣装を作り上げ、海夢役の直田姫奈さんが実際にその衣装を着るまでを、全13回・2時間半かけて描いていて、その解像度の高さは桁違いである。

時には地道に布を切り出したりミシンを使ったりする場面もじっくり映すことで、実際の製作作業の大変さや出来上がったときの達成感が疑似体験できる。布を選びに行くところが楽しそう。レイヤーさんてすごい…!と畏敬の念が芽生える。自分もコスプレ衣装ではないにしても一着作ってみたい!!と思う(朝ドラの「カーネーション」を観ているときにも思った)。そう思わせるのは石毛さんが苦労しながらも真剣に笑顔で取り組んでいたからだと思う。講師を務めたレイヤーかつレイヤー雑誌の副編集長をしている千都ちひろさんは、すごく丁寧に教えてくれる人だったけど、実際に直田さんがコスプレを完成させたのを見て早口のオタクになっていたのがめちゃめちゃよかった。

これだけコスプレ制作の解像度が上がった状態で本編に戻ってみると、登場人物の心情の説得力が段違いだ。五条くんに畏敬の念を抱かざるをえない。

まとめ

どこをとってもハイクオリティな着せ恋、アマプラやネトフリで観られるので是非!

*1:っていう言い方がtiktokにも適用できるのだろうか。私のツイ廃ぶりが垣間見えてしまった。