読み鍋屋

杓子を逃げしものや何

好きなクリエイターの新作ラッシュのお陰で中世日本の解像度が上がる

はじめに

今クールのエンタメ作品がアツい!

今クールはリアタイうきうき作品が多い。伊藤沙莉の出演する月9ドラマ「ミステリと言う勿れ」、高橋一生の出演するNHKよるドラ「恋せぬふたり」が先週から始まった。既に録画を溜めてしまっているが、朝ドラ「カムカムエヴリバディ」は私が2番目に好きな朝ドラ「ちりとてちん」の脚本を担当した藤本有紀さんがまた担当している。

これらはとりあえず様子を見てみるか、あるいは追い付かなければといった状況だが、今クールの映像作品の中で1話を観て最も面白かったのは、三谷幸喜脚本の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」だった。そして最も心待ちにしていたのが、アニメ「平家物語」である。本作の監督を務める山田尚子は「けいおん!」を監督している。私は昨年の今頃「けいおん!」に出会い、生涯の中でも好きな何本かの作品のひとつとなった。2018年の映画「リズと青い鳥」以来、山田尚子監督の新作は発表されず、京アニの別作品の各話演出への参加もしていなかったので、新作を心待ちにしていたところにやってきた朗報。しかも今回は京アニを飛び出して、「映像研には手を出すな!」「四畳半神話大系」などを製作したサイエンスSARUで製作するらしい、とあれば期待値はカンストせざるを得ない。また、「魔神探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」の作者である松井優征が、昨年から週刊少年ジャンプにて「逃げ上手の若君」の連載を始め、単行本が既に4巻まで刊行されている。こちらも7年前に「暗殺教室」にはまった私が楽しみにしていた新作である。

という訳で、まあ大河ドラマは毎度歴史を扱うので中世日本を描いてもおかしくないわけだが、アニメと少年漫画の最前線を走るクリエイター2人がそろって歴史物を扱う、しかも鎌倉時代前後の中世日本を扱う、というのはかなり奇遇なのである。私の中に空前の中世日本ブームが訪れること請け合いである。本稿ではこれらの中世を扱った作品の1話までのあらすじと、だいたいどの辺までが描かれそうかをざっくりさらっていく。

「逃げ若」のTwitterアカウントも「鎌倉殿の13人」に言及してた。

執筆者のうろ覚え中世日本史

私は日本史という科目が小中学校を通して苦手だった(高校ではたしか履修しなかった)。私の日本史の記憶はほとんど中学受験の記憶であり、今となっては次々と暗記させられる年号とメジャーな登場人物しか覚えていない。鎌倉時代前後についてうろ覚えなこことはこんな感じ(記憶がめちゃめちゃ間違っている可能性があるが、あえて指摘は受け入れず恥をさらしておく)。

  • 1185年の檀ノ浦の戦いで源頼朝が平家を滅亡させた。
  • 1192年に頼朝が鎌倉幕府を設立、征夷大将軍になった(征夷大将軍がどんな役職なのかは知らない)。
  • 頼朝と義経は兄弟なのにめっちゃ仲悪い。
  • 義経は牛若丸とも呼ばれ、弁慶に勝利した。弁慶がどういう人なのかはよく知らんが、とにかく大きくて強いらしい。たしか背中に傷を作りたがらなかった人。
  • 頼朝の奥さんは北条政子。源家は三代くらいで滅びちゃってそのあと実権を握るのが北条家。政子は尼さんになる。
  • 鎌倉の街は三方が山、一方が海なので攻め込まれにくい。抜け道は切り通しという。
  • その北条家が足利尊氏にやられて失脚。

てな感じである。鎌倉の大仏を建てたのが誰なのか、何で鎌倉を選んだのか、平家はどうやって天下を手に入れたのか、あたりは日本史の時間にやっててしかるべきトピックだが、全然記憶にない。こんなすかすかの記憶を埋めるのはさぞ楽しかろう。記憶のレーシック手術である。さて、次章ではそのレーシック手術の治療道具に選ばれた三作品の1話分とどの範囲の時代を扱うのか、簡潔に述べる。

逃げ上手の若君

描かれる時代

1333年の鎌倉で尊氏が鎌倉幕府を滅ぼして、その残党の時行が復讐するまでを描くようだ。復讐は2年後になされると予告されており、その2年間を描くものと推察される。前2作は鎌倉時代の始まりを描くが、今作は終わりを描く。

1巻のあらすじ

北条家に遣える足利尊氏(最初は高氏だった)が反乱を起こし北条家を一網打尽にした。わずか8歳で家族を亡くし残された北条時行(北条義時の子の7乗)は、攻撃力はないものの、逃げることの天才だった。諏訪大社の当主・諏訪頼重によって諏訪領で匿われることになった時行は、尊氏からの追求を逃れながら、同世代の三人を郎党に従えつつ、諏訪大社で力を蓄え、反撃の機会をうかがう。

1巻の感想

本稿で紹介した3作の中で圧倒的に知名度が低い人物が主人公だが、わずか8歳の少年が明らかに勝てそうにない足利尊氏にどう対抗し一矢報いるのかわくわくする。郎党もまだ若いのに心強い!

1巻からゲットした知識

  • 諏訪大社は北条氏の味方だった。
  • 足利尊氏の尊の字は後醍醐から授かった。
  • 尊氏は朝廷にすり寄り、侵食を始めていった。

鎌倉殿の13人

描かれる時代

タイトルの「鎌倉殿の13人」は頼朝が鎌倉幕府を建てて、やがて亡くなった後に発足された鎌倉幕府の集団指導体制であるそうだ。この発足年が1225年だそうだ。タイトルになるくらいだからそこまでは描くのだろう。というかおそらく義時の生涯は追い続けるのだろう。オープニングには年号がずらっと出てくるシーンが挟まっているが、それはいずれもこれ以前の年のようなので、もしかしたら後半に差し掛かると年号がアップデートされるかもしれない。この数字を観ただけで各年が何が起こった年かわかる人は、それはそれで楽しめそうだ。

1話のあらすじ

平清盛が隆盛を極めていた1175年、伊豆に暮らす北条義時(演:小栗旬)が兄の宗時(演:片岡愛之助)、姉の政子(演:小池栄子)らとのんびり暮らしていた。一方、流罪人・源頼朝(演:大泉洋)が義時の幼馴染み・八重(演:新垣結衣)と恋仲になり男児をもうけたことに、清盛から頼朝の監視を任されていた八重の父(かつ義時の祖父)・伊藤祐親(演:浅野和之)が激怒し、北条家にも捜索命令が下る。兄の宗時は平氏への反抗心を抱えており、森友を匿って兵士の対抗勢力にしようと画策。その策に義時は巻き込まれ、頼朝の隠匿に協力せざるを得なくなる…

1話の感想

とにかく出てくる登場人物がたくさんいて一発じゃ特徴を覚えきれない!1回目はまずこんな役者さんが出てくる!というのと印象的なシーンをインプットして、そのあと2回目を観ることで全体の流れと各シーンの台詞の意味合いを把握できた。最近こういう、同じ話を情報量が多いから短期間で2度繰り返し観る機会がなかったから、すごく濃厚な作品だと感じた。そしてよく知ってる役者さんも知らない役者さんも生き生きしているのを観ると、歴史の教科書で基本的に何をなしたかしか言及されない人物たちも、こんな人間らしい振る舞いをしていたのかもしれないなあと思いを馳せるに至り、歴史上の人物がより身近に感じられて楽しいのだ。もちろん私のような解像度低いマンには実際の性格とか推定できないわけだが、そういう時にはTwitterとかウェブのちゃんとした考察記事を書いてくれている人の言葉をありがたく参考にしている。

閑話休題。3人特に印象に残った人物をあげるとしたら、やはり源頼朝北条政子北条時政である。頼朝は流罪人だがシティボーイで多彩で物腰柔らかくモテる面と戦モードに入ったときの冷徹さのギャップがもう。しかもそれを大泉洋がやってるんだもん!!北条政子はわかりやすく頼朝にぞっこんになってアプローチをかけてたのがめちゃめちゃ面白かったけど、それでもなお品があったのは小池栄子が演じていたからなのだろう。時政パパもまたかなりお茶目で、「正月と三島明神の祭りがいっぺんに来る」「首チョンパだよもー!」など指導者らしさを感じさせない言動がしばしば観られたのに、いざ頼朝を匿う決意を固めたら堂々たる態度を示していたのがかっこよかった!生死が紙一重であるところが中世日本の魅力なんだなあ、自分絶対その時代に生きたくないけど、と思った(笑)ラストシーンの劇伴が「新世界より」なのもマッチしててとてもかっこいい!

1話を観てゲットした知識

  • 北条政子は最初の妻ではない
  • 北条家は元々伊豆で暮らしていた
  • 北条家のじいちゃんは平家側の人間だった
  • 頼朝は罪人としてやってきた
  • 平将門は既に斬首を受けている
  • 平治の乱で女装によるカモフラージュ作戦を喰らった頼朝がその作戦を生かして逃げる

平家物語

描かれる時代

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」のイントロで有名なこの平家物語、琵琶法師が次々と改編と脚色を繰り返すので、オリジナルがどんなだったのか調べるのは至難の技だそうだが、古川日出男が現代語訳した版を底本として、オリジナルキャラクターびわを主人公に据えて製作されたのがアニメ「平家物語」である。こちらは「鎌倉殿の13人」と逆に平安末期の1150年代あたりからを平家側からとらえた作品で、平家の栄華が終焉を迎える1185年の檀ノ浦の戦いまでを描く。脚本は山田尚子監督と数々の名作を生み出していて、他の監督作品でも活躍している吉田玲子。

1話のあらすじ

主人公の少女びわ(CV:悠木碧)は平家のことを批判する言動を取った市民を弾圧する場面を父と目にして、つい「ひどい…」と口にしてしまう。その責任を親として取らされ、父は殺されてしまう。平清盛(CV:玄田哲章)が息子の平重盛(CV:櫻井孝宏)に厳島神社を建立するプランを明かすが、その際重盛は清盛に「お前は面白味が足りない」と言われる。帰り道に重盛は左目で亡者の影を見る。一方びわは右目で未来を見ることが出来、重盛と出会って平家は時期に滅びると告げる。重盛はびわの父が平家の武士によって殺されたことをその左目で見破ってしまい、びわに詫びる。びわは父親に未来を見ないように言いつけられていたので見ようとしないが、その能力を買って、重盛はびわを屋敷に招き入れる。

1話の感想

最初のシーンからひたすらに美しい!!山田尚子が帰ってきた!!!原画の線の太さが一定じゃないところが生きている感を味わえて好き!!花開くシーンも良き!!オープニングも良き!!貂明朝アレンジロゴも良き!!

冒頭シーンは平家の圧倒的な力と残酷さを感じさせる、そして最初の平家の宴会シーンはとにかく声の通りが良い!!そしてみんな知ってる厳島神社!!そして琵琶の音が心地良い!えっもう終わり?!?!あっという間過ぎる~~!!エンディング不思議な曲~~!!

…観終わってしばらくして落ち着いて振り返ると、この作品は3作のなかで最も、歴史的な事件にフォーカスするというよりも、人々の繋がりを丁寧に描いていくんじゃないかという予感がした。と思ったら監督自身もインタビューで叙事詩としてでなく叙情詩として描いてみたいと言っていた。

youtu.be

山田尚子監督の近影が観られて大変幸せです。お変わりなく元気そうでよかった。

1話を観てゲットした知識

  • 清盛の圧政は厳しかった。
  • 清盛が厳島神社を作った。彼は海を重要視していた。

三作の関連とこれからの楽しみ

平家物語」の方が「鎌倉殿の13人」よりも開始は少し先(まだ天皇とは肩を並べていない)、終了は「鎌倉殿の13人」よりだいぶ後。さらに百数十年空けた時代を「逃げ若」が描く。「逃げ若」は直接的に時代が重なることがないが、一通り「平家物語」と「鎌倉殿の13人」を観終えたら色んなことが想像できるようになっているかもしれない。

平家物語」の1話で清盛は面白さを追求しつつ勢力を拡大していくイケイケのおっちゃんとして描かれていたが、さてこれから登場する「鎌倉殿の13人」ではどうか。みたいなことがあらゆる登場人物で比較できそうなのも楽しみである。と思っていたら「平家物語」の放送開始直前特番で源頼朝杉田智和がやると知った。声優界の大泉洋ポジにだいぶ近い人物!!(笑)もともと怖いことする人だと思ってたけど、両作品がそこにお茶目な演技も出来る役者をあてたのが興味深い!

おそらく最も史実に近いのが「鎌倉殿の13人」、それに「逃げ若」「平家物語」と続く。これは大河ドラマ、アニメ、漫画のそれぞれのメディアで馴染みやすい脚色を施した結果だろう。しかしどの作品も教科書ではやったことしか知らされない歴史人物をコミカルに描いていて、親しみがもてる。これだけ皆同時期に近い年代の日本史を扱うというのは、それだけこの時代に魅力がつまっているということなんじゃないか。本稿では未公開のため取り上げなかったアニメ映画「犬王」(監督:湯浅政明、脚本:野木亜紀子、音楽:大友良英、今年初夏公開予定)も南北朝時代から室町時代までを描くそうで、全幅の信頼クリエイターが携わる中世日本ものラッシュはまだまだ止まらない、どころか始まったばかりである。私はこれまでの人生で最も中世日本に関心を抱いている。今後の各作品の行く末が楽しみ!

 

まさかの同クールでこんな事態も。複数の大河ドラマではしばしば見られた現象だけど、同じクールでは初めてなのでは?!