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結婚を前提にお付き合いしてください

結婚を前提にお付き合いしてください

とはドラマとか恋愛バラエティとかでたまに見る告白の言葉だ(現実に使われているのかどうかは、少なくとも私は言ったことも言われたこともないので知らない。でもフィクション特有の表現という文脈で使われているわけではないので、たぶん使われている)。でもよくよく考えるとその意図するところはよくわからない。そこで本稿では「結婚を前提にお付き合いしてくださいってどういうこと??」を突き詰めていきたいと思う。

「結婚を前提としない交際」も存在する

まず前提として、「結婚を前提とした交際」が存在するとすれば、「結婚を前提としない交際」も存在するということだ。前者の言葉のほうが人口に膾炙している*1ので結婚を前提とした交際のほうが特別というかレアな感じがするが、こっちのほうがむしろ一般的ではないか?

「結婚を前提とした交際」は「婚約」とは全く違っていて、「私はあなたと結婚することを念頭に交際したいです」という意味だと私は理解しているが、この前提が正しいとすれば「結婚を前提としない交際」との違いを決定づけるパラメータは「互いの認識している結婚可能性」だろう。言い換えれば、

結婚を前提とした交際→互いに相手と結婚する可能性が高いと考えていることを共有した上での交際

結婚を前提としない交際→上記のことを共有していない交際。つまり互いに結婚可能性には言及しない交際。両方が結婚可能性が高いと考えている、片方が結婚可能性が高いと考えている、両方結婚可能性が低いと考えている、のいずれかであり、互いの認識は確認されていない、あるいは少なくとも片方が結婚可能性を低く見積もっている、ということが確認されている

ということになる。

私がこんなややこしいことを考えている要因の一つは、大半の人々が交際を経て結婚にたどり着くためである。つまり交際しているだけで、交際していない状態よりも結婚可能性は飛躍的に上がっているわけである。交際した時点で、この人と結婚しそうかのシミュレーションはするだろうし、交際を申し込むときなんてたいてい浮かれているのでこの人と結婚したいくらいまで考えていそうなものだ(筆者の主観が大いに入っているのは承知している)。だったら「お付き合いしてください」≒「結婚を前提にお付き合いしてください」なのではないか

じゃあどんなときに「結婚を前提としないお付き合い」が生まれるか

なんか人の倫理観に踏み込む難しいシミュレーションだが、結婚を前提としない交際にはこんな例がありそうだ。

  1. 人生のレールが分岐しそうな気がする
    片方が移動の多い仕事でもう片方が相手に合わせるのが難しい仕事だったとき、遠距離恋愛になって戻ることはなさそうだという予感は持つが、それまでの瞬間は大切にしたいという場合。
  2. (まだ)そこまで好きじゃない
    こういう交際関係はそれなりに多そうだ。まあ恋人として対峙していったら相手への印象が好転するかもしれない、という投機としての交際。私はこういう交際へのハードルが高かったから「お付き合いしてください」≒「結婚を前提にお付き合いしてください」ではないかと思ったわけだが、ハードルを下げて経験を積んだほうが良かったのだろうか。しかし結局テンションが上がらずにうまくいかなさそうでもあるし。難しい。
  3. 交際はしたいが結婚はしたくない
    こっちはそもそも最初っから結婚する気のないパターン。お互い割り切っているなら良いと思うけど、片方だけその気になっていたりすると悲劇が起きそうだ。私はなるべくその悲劇を避けたい。しかし1. や3. ときっぱり分けられるものでもない。結婚する気がなかったけど気がつけば本当に好きになっていた、とか。グラデーションなので難しい。

類語を考えてみる

「合格を前提にオーディションに参加してください」

こんな事を考えていると、交際ステータスとはドラマの役を決めるオーディションのように細分化出来るのかもしれないと思い至った。書類選考はマッチングアプリの「いいね」みたいなもので、2次選考は実際に何回かデートしてみる、3次選考が交際するかどうか、くらいだろう。この場合、「結婚を前提としたお付き合い」とは出来レースのようなものなのだろうか。事務所の力などによってこの人が採用されることが決まっているが、体面上選出プロセスは経たように見せる、みたいな?うーんそれは結婚前提交際よりも採用可能性が高そうだ。

正規雇用を前提に非正規雇用で採用してください」

5年条項の理念は5年も連続で採用するほど貴重な人材なら正規雇用しなさい、という理念でこの言葉と同じような意味だったはずだが、5年でクビ条項と化してしまっている。しかしいきなり正規雇用となる人は結婚よりは多いのでちょっとシチュエーションが異なる。

交際で生じる結婚可能性の変動要因

結婚を前提にしていたかどうかはともかく、交際で生じる結婚可能性の変動要因にはこんなものがある。

  1. 持っていた印象と異なる
    付き合う前は優しかったのに付き合ってから冷たくなった…とか。これは本人にも予測できないことがあるので難しい。自分も相手にとってこういう存在になるんじゃないかと怖くなることがある。
  2. 知らなかった事実が明かされる
    部屋がめちゃめちゃ散らかってるとか、思想の違いが激しいとか。
  3. 結婚できない状況に変化する
    経済的な都合とか、就職先の都合とか、家庭の都合とか。

これらを踏まえると、1. と2. は長い人付き合いをしてきた二者間ではあまり起こらなさそうだ。3. は人生何が起こるかわからず、割と不可避だろう。そうすると「結婚を前提にした交際」の必要条件は1. と2. がある程度クリアできているということか…?うーんしかし結婚してからネガティブ要素が判明して後悔する、という話もちらほら流れてくるしなあ…。

結局何が言いたいのか

結婚を前提としていようがしていまいが、確かなことはわからないことは同じだから、結局「現時点でも結婚したいほどめちゃめちゃ好き」っていう宣言でしかないのではないか。その言葉への信頼感はその言葉を発した人物の信頼感に比例するだろう。例えば友人関係が長かったり、かつて交際していた人とよりを戻したりする場合ならわりと信頼感あるフレーズだと思うが、会って間もない人ならちゃんと未来見えてるのかなこの人…と不安になる。とにかく交際をするときは真摯でありたい。このセリフを言ってみたいとは思わないが一生を添い遂げる人とは出逢ってみたいものだ。

*1:初めてこのフレーズを知ってからこれまでの数年間"かんしゃ"と読んでいたのでなかなか変換できないなと思ったら"かいしゃ"だった。テヘペロ